【開発物語】富士通のスパコン「京」 逆転の発想、周波数下げ省電力 (1/7ページ)

2011.8.22 05:00

世界一の計算速度を達成したスーパーコンピューター「京」

世界一の計算速度を達成したスーパーコンピューター「京」【拡大】

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 ≪STORY≫

 完成途上の京(けい)速スーパーコンピューター「京」が、性能評価テストで毎秒8162兆回の演算性能をたたき出して世界最高速となったニュースは、東日本大震災後の経済産業界に久々の明るい話題を提供した。来秋の完成時には、文字通り、1京(10ペタ=1兆の1万倍)という人類初の演算性能が現実になる。しかし、プロジェクトの前にはいくつもの壁が立ちはだかった。

 理化学研究所(理研)が京速スーパーコンピューター「京」の開発プロジェクトをスタートさせたのは2006年4月。当初は民間企業は富士通のほかNECと日立製作所も参加し、汎用(はんよう)のマイクロプロセッサー(MPU)部と、専用に開発したベクトルプロセッサー(VP)部を組み合わせたハイブリッド型だった。しかし、09年5月にはNECが開発費負担の増大を理由に日立とともに前代未聞の撤退を表明。プロジェクトの存続が危ぶまれたが、理研は神戸に建設中の施設工事を中断し、設計変更を行ったうえで、7月に民間企業は富士通単独として再スタートした。

 しかし、富士通が揺るぎない姿勢で国家プロジェクトに臨んだかというと、「きれいにスタートできたわけではなかった」(井上愛一郎・次世代テクニカルコンピューティング開発本部長)。当時、サーバーシステム事業本部の技師長だった井上さんは05年末に話を聞いて「私も、ほかの技術者も、とてつもなく魅力を感じた」。すぐに、上司の山中明本部長(当時)に「やらせてほしい」と直訴したが、会社の反応は鈍かった。当時、インテル系MPUでスパコン並みの高性能機を販売していた富士通だが、「真っ正面からスパコン開発なんてとんでもない」「そんな暇があるのか」といった否定的な意見も少なくなかった。

(次ページ)難題をクリアするために「奥の手」

  • 「京」の主な開発メンバー。半導体、システム、ソフトウエア、性能評価など多様な部門の人材が「世界最速」を目指して集まった=川崎市中原区
  • 東日本大震災でSPARC64VIIIの製造ラインも被害を受けたが、24時間態勢で復旧作業を急ぎ、世界最速の性能テストに間に合わせた=富士通セミコンダクター子会社の宮城工場
  • 逆転の発想でこれまでにない低消費電力を実現した「SPARC64VIII」の拡大図
  • 計算速度で世界ランキング1位に選ばれた「京」について記者会見する理化学研究所の野依良治理事長(左から2人目)ら=6月20日
  • ラック1台には「SPARC64VIII」を8個搭載したCPU102個が収納されている