「夕立」の版間の差分
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{{Otheruses|雨|その他(夕立ちを含む)|夕立 (曖昧さ回避)}} |
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'''夕立'''(ゆうだち)は、[[夏]]の[[午後]]、昼過ぎから[[夕方]]ごろ降る[[雨]]{{Sfn|気象科学事典|p=513|ps=「夕立」(著者: [[宮澤清治]])}}。強い[[日射]]のため雨雲が発達するもので{{Sfn|気象科学事典|p=513|ps=「夕立」(著者: [[宮澤清治]])}}、短い時間に激しく降り、[[雷]]を伴うことが多い{{Sfn|気象科学事典|p=513|ps=「夕立」(著者: [[宮澤清治]])}}<ref name="内田">{{Cite kotobank|word=夕立 |hash=-144804#w-1213150 |encyclopedia=平凡社『改訂新版[[世界大百科事典]]』 |author=内田英治 |access-date=2024-08-03 }}</ref><ref name="b">{{Cite kotobank|word=夕立 |hash=-144804#w-144804 |encyclopedia=『[[ブリタニカ国際大百科事典]] 小項目事典』 |access-date=2024-08-03 }}</ref>。 |
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{{出典の明記|date=2013年7月}} |
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[[Image:Cumulonimbus cloud in Japan 1.jpg|thumb|right|250px|夕立の雲]] ※よく似た写真なので--> |
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'''夕立'''(ゆうだち)は、[[夏]]の[[午後]]から[[夕方]]にかけてよく見られる[[天気]]。激しいにわか雨を伴う。まれに'''夕立ち'''とも。 |
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== 語義 == |
== 語義 == |
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古語としては、雨に限らず、[[風]]・[[波]]・[[雲]]などが夕方に起こり立つことを[[動詞]]で「夕立つ(ゆふだつ)」と呼んだ。その[[名詞]]形が「夕立(ゆふだち)」である。 |
古語としては、雨に限らず、[[風]]・[[波]]・[[雲]]などが夕方に起こり立つことを[[動詞]]で「夕立つ(ゆふだつ)」と呼んだ<ref name="nkd2">{{Cite kotobank|word=夕立つ |hash=-650968#w-2141256 |encyclopedia=小学館『精選版日本国語大辞典』 |access-date=2024-08-03 }}</ref>。「立つ」はこうした自然の動きが目に見えるようになることを表す<ref name="nkd">{{Cite kotobank|word=夕立 |hash=-144804#w-2141252 |encyclopedia=小学館『精選版[[日本国語大辞典]]』 |access-date=2024-08-03 }}</ref>。その[[名詞]]形が「夕立(ゆふだち)」である。 |
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ただし一説に、天から降りることを「タツ」といい、[[雷神]]が[[斎場]]に降臨することを夕立と呼ぶとする<ref>『[[広辞苑]]』(5版)「夕立」{{要ページ番号|date=2017年10月}}</ref>。 |
ただし一説に、天から降りることを「タツ」といい、[[雷神]]が[[斎場]]に降臨することを夕立と呼ぶとする<ref>『[[広辞苑]]』(5版)「夕立」{{要ページ番号|date=2017年10月}}</ref>。 |
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「夕立」の確認されている初出は『[[万葉集]]』で、『[[うつほ物語]]』などにも見える{{R|nkd}}。「夕立つ」の初出は『[[紫式部集]]』{{R|nkd2}}。もとは晩夏から初秋の言葉だったが、『[[新古今和歌集]]』のころから夏の言葉として定着したとされている{{R|nkd}}。 |
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{{quotation|夕立ちの 雨降るごとに 春日野の 尾花が上の 白露思ほゆ|『万葉集』第10巻2169番<ref>{{Cite wikisource|title=万葉集 第十巻 |wslink=万葉集/第十巻#10/2169 |wslanguage=ja }} </ref>}} |
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{{quotation|かきくもり 夕立つ浪の 荒ければ 浮きたる舟ぞ しづ心なき|『紫式部集』}} |
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{{quotation|夕立の来て蚊柱を崩しけり|[[正岡子規]]}} |
{{quotation|夕立の来て蚊柱を崩しけり|[[正岡子規]]}} |
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== 気象 |
== 気象における使用 == |
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夕立は日本の夏期にみられる季節性の[[にわか雨]]([[驟雨]])。 |
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夕立という現象は、気象学的には[[驟雨]]、[[にわか雨]]、[[雷雨]]、[[集中豪雨]]といった現象にあたり、「夕立」という独立した現象があるわけではない。ただ、通常の驟雨などに比べて発生する時間帯などが特徴的で、一般的によく知られているため、日本では「夕立」という用語を気象学でも(特に[[天気予報]]で)用いる。 |
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気象用語としては、観測の分野では使わず<ref name="平塚">{{Cite kotobank|word=夕立 |hash=-144804#w-1603330 |encyclopedia=小学館『[[日本大百科全書]](ニッポニカ)』 |author=平塚和夫 |access-date=2024-08-03 }}</ref>、[[気象庁]]では報道発表資料や予報解説資料などに限って夏期に使うことがある「解説用語」の扱いとなっている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html#H7 |title=天気予報等で用いる用語 > 降水 > 夕立 |publisher=気象庁 |access-date=2024-08-06}}</ref><ref name="jma-w">{{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kaisetsu.html |title=予報用語について |publisher=気象庁 |access-date=2024-08-06}}</ref>。予報の分野では、一般向け[[天気予報]]の解説の場面では用いられてきた。 |
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現象としては、急に発達した積乱雲によりにわか雨を降らせ、[[雷]]、[[突風]]、[[雹]](ひょう)などを伴うことがあるものである。 |
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「夕立」の[[新聞]]記事における使用頻度は1990年代から2010年代にかけて有意な変化が見られないとする報告がある一方<ref>{{Cite journal|和書|author1=藤部文昭 |author2=松本淳 |title=気象・災害関連語の新聞記事件数の長期変化 |journal=天気 |publisher=日本気象学会 |volume=69 |issue=6 |pages=319-325 |year=2022 |month=06 |doi=10.24761/tenki.69.6_319 }}</ref>、近年は[[テレビ]]や[[ネットニュース]]を中心に「[[ゲリラ豪雨]]」の使用が増えているとされる<ref>{{Cite web|和書|url=https://kids.gakken.co.jp/kagaku/kagaku110/summershower20230718/ |author=今井明子 |title=夕立は、どうして起こるの? ゲリラ豪雨とは、どんな違いがあるの? |work=科学なぜなぜ110番 |website=学研キッズネット |publisher=[[ワン・パブリッシング]] |access-date=2024-08-06}}</ref>。 |
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時間帯では、正午を過ぎたころから日没後数時間までに発生するものを指す。これに対して、早朝に発生するにわか雨を「朝立」と呼ぶこともあるが、夏特有の現象というわけではなく、単純に早朝に発生するにわか雨のことを指しているだけで、あまり使用されない言葉である。 |
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== 気象学的特徴 == |
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時期では、[[梅雨明け]]頃から[[秋雨]]が始まるころまでで、夏の晴れが多い時期に発生するものを指す。 |
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夕立の特徴は次の通り。 |
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* 降雨 - 降雨の継続時間は数十分から2時間程度{{R|内田}}<ref name="岩槻">{{Cite book|和書|author=岩槻秀明 |title=最新気象学のキホンがよ〜くわかる本 |edition=2版 |chapter=§10-2「雷雨」 |pages=361-364 |publisher=秀和システム |year=2012 |isbn=978-4-7980-3511-6 }}</ref>。降雨域の分布は局地的、散在的{{R|岩槻}}。上空に寒気が侵入してきたときは降り方が強まる傾向がある{{Sfn|気象科学事典|p=513|ps=「夕立」(著者: [[宮澤清治]])}}。ベースは個々の[[降水セル]]が独立に活動するシングルセル雷雨(気団性雷雨)で、[[ガストフロント]]上に新たなセルが単発的に生じる程度だが、鉛直[[ウインドシア|シア]]が大きいときには組織化されたマルチセルになりより長く活動することがある{{R|岩槻}}{{R|小倉ほか2002}}。成因別では[[降水型|対流性降雨]]の性質が強い。 |
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[[前線 (気象)|前線]]、特に[[寒冷前線]]通過に際しても、突発的な強雨、強風、雷などの夕立に似た現象が起きるが、この場合は季節や時間を選ばず広範囲に起こるので、夕立とは区別される。また、[[低気圧]]の周辺で発生するもの、[[台風]]の周辺で発生するものも夕立とは呼ばない。 |
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* 雷 - よく雷を伴い{{Sfn|気象科学事典|p=513|ps=「夕立」(著者: [[宮澤清治]])}}{{R|内田}}、ときに{{読み仮名|[[霰]]|あられ}}や{{読み仮名|[[雹]]|ひょう}}、[[突風]]も伴う{{R|内田}}<ref name="jma-r">{{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/radar/kaisetsu.htmll#mikata |title=気象レーダー |chapter=夕立によるエコー |publisher=気象庁 |access-date=2024-08-06}}</ref>。 |
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* [[雷#種類|雷の成因]](もしくは[[積乱雲]]発達の原因)としては、主に[[熱雷]]{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}、つまり強い日射加熱に起因する大気下層の不安定が[[上昇気流|上昇流]]を生み[[対流]]を駆動する性質をもつ{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}<ref name="小倉ほか2002">{{Cite journal|和書|author1=[[小倉義光]] |author2=奥山和彦 |author3=田口晶彦 |title=SAFIRで観測した夏期の関東地方における雷雨と大気環境 I 雷雨活動の概観と雷雨発生のメカニズム |url=https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2002/2002_07_0541.pdf |format=pdf |journal=天気 |publisher=日本気象学会 |volume=49 |issue=7 |pages=541-553 |year=2002 |month=07 |crid=1520290884343909120 }}</ref>。ただし、[[前線 (気象)|前線]](とくに[[寒冷前線]]の南下)の影響を受けて界雷(熱雷・界雷2つの性質をもつことを重視して熱的界雷や熱界雷といったりもする)となったり{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}、[[温帯低気圧|低気圧]]や[[台風]]、上空の[[寒冷渦]]などの影響を受けて渦雷となったりする{{R|小倉ほか2002}}。熱雷であっても寒気の影響を受けるなど、複合的な成因となることは少なくない{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}。 |
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夕立の発生は通常、午前中からの日射により地表面の[[空気]]が暖められて上昇気流を生じ、[[水蒸気]]の凝結によって[[積乱雲]]を形成して降雨をもたらすという過程を取る。上昇気流、上空と地表付近の大きな気温差、高温多湿の空気の3つの条件が揃うと、大気が不安定になり夕立の雲が発生する。 |
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「夕立は[[馬]]の背を分ける」という[[ことわざ]]がある。馬の背の片側だけ雨に濡れ反対側は乾いていることがあるというもので、あるいは「馬の背」は山の[[尾根]]を指すとも考えられるが、降雨の範囲が狭く降る所と降らないところが分かれるという夕立の性質を伝えている{{Sfn|気象科学事典|p=513|ps=「夕立」(著者: [[宮澤清治]])}}<ref>{{Cite kotobank|word=夕立は馬の背を分ける |hash=-650966#w-2141253 |encyclopedia=小学館『ことわざを知る辞典』|editor=[[北村孝一]] |access-date=2024-08-06 }}</ref>。 |
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高温多湿の空気は、気圧配置の影響が大きい。台風や低気圧が日本の南海上にあるときは、湿った空気が上空から供給される。 |
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活発な雷雨の後には、ふつう涼しい風が吹くことが多い{{R|平塚}}。 |
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気温差は、上空の[[寒波|寒気]]や暖かく湿った空気が流れ込んだり、猛暑が続いて地表の温度が高くなると生じやすい。また、台風や低気圧が日本の北方にあるときや、日本が高気圧の辺縁部にあるときは、[[湿暖気流|湿暖流]]が流れ込んで気温と湿度の上昇が起きる。 |
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上空に寒気が侵入すると、大気の不安定度は強まり雷雨も激しくなる{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}{{Sfn|気象予報士ハンドブック|p=53}}。寒気は上空の寒冷渦や[[気圧の谷]](トラフ){{R|小倉ほか2002}}。侵入してくる寒気の南東側は雷雨が激しくなることが多いが、これは上空寒気に対して南東に下層の[[暖湿流]]が入るため{{Sfn|気象予報士ハンドブック|p=53}}。 |
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日本に張り出していた[[太平洋高気圧]]が一時的に後退するのに伴い、寒気が侵入し、夕立の発生が促されるパターンがある{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}<ref>{{Cite book|和書|author=[[木村龍治]] |title=大人のための図鑑 気象・天気の新事実 気象現象の不思議 |publisher=新星出版社 |year=2014 |page=135 |isbn=978-4-405-10803-5 }}</ref>。8月の後半に入るとこれが起こりやすい{{Sfn|気象予報士ハンドブック|p=38}}。 |
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寒気が強いときは、雷雨が夜遅くまで継続することがある<ref name="jma-ngn">{{Cite web|和書|url=https://www.jma-net.go.jp/nagano/shosai/kikou/document/natsu.html |title=長野県の気候 夏の特徴 |publisher=長野地方気象台 |access-date=2024-08-06}}</ref>。そして、このような天候で(夕立の語義からは外れるが)夜間や朝に降る雨は大雨になることがある{{R|平塚}}。 |
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高温でも比較的[[空気]]が乾いた「カンカン照り」の日や風が強い日には起きにくい。[[湿度]]が高く蒸し暑い「油照り」の日の午後によく発生する。 |
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短時間で[[雲]]が出てきて大粒の[[雨]]が降るのが特徴。青空に突然[[積雲]]が現れ、それが[[雄大積雲]]、[[積乱雲]]へと成長し雲のてっぺんの高さが高度5,000–10,000m程度に達するまでに掛かる時間は、普通は1–2時間程度、短くて数十分のときもある。雨が降り出すのは、雲の成長がピークを迎えた頃からで、冷たい強風とともに雨が降り出す。冷たい強風を伴うのは、雨が[[下降気流]]と一緒に落下してくるためで、下降気流は雨を押し下げ、雨も自身の重力によって周囲の空気を押し下げることで、下降気流は上空で次第に強まりながら地上に吹き降ろしてくる。 |
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夕立が過ぎた雨上がりにはしばしば[[虹]]ができる。夕立のためこの時期に虹が多いことから、虹は夏の季語となっている{{Sfn|森田(監修)|2020|p=74}}。 |
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この下降気流による冷たい強風は、積乱雲の下や周囲の[[気温]]を急激に下げ、夏の暑さを和らげてくれる。また、強い雨が降ると[[蒸発]]の際に地面から多くの[[気化熱]]が奪われてさらに気温が下がる。夕立が起こる前の気温が高い場合は、夕立によってその場の気温が数十分間で15℃程度下がることもある。 |
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=== 地形の影響と地域差 === |
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一方、冷たい強風は時に激しい突風をもたらすことがある。多いのは[[ダウンバースト]]で、稀に[[竜巻]]が発生することがある。 |
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内陸や山地は雷雲が発生しやすく、平野部よりも早い時間帯から発生がみられることがある{{Sfn|気象ハンドブック|pp=227,650}}{{R|小倉ほか2002}}。山の斜面は熱的に[[山谷風|斜面上昇風]]が生じやすく、風に押された空気の力学的な上昇(強制上昇)が生じやすいことが関係している{{R|小倉ほか2002}}。また長野県の夏の雷雨の例では、山の南斜面に積乱雲が発生しやすい傾向がある{{R|jma-ngn}}。 |
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雷雲の活動がほとんど山地に限られる場合、山地から平野へと活動域が拡大または遷移していく場合があり、これらは太平洋高気圧に覆われて前線などがないときに多い{{R|小倉ほか2002}}。前線や台風が接近・通過するときには、山地でも平野でも雷雲の活動が活発なパターンがよくみられる{{R|小倉ほか2002}}。頻度は少ないが、局地的なスケールの[[収束線]]に伴い平野だけで雷雲がみられるパターンも見いだされている{{R|小倉ほか2002}}。 |
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夕立の雨がにわか雨なのは、積乱雲の中の気流の乱れに関係している。1つの巨大な塊に見える積乱雲でも、その中ではいくつかの気流循環のまとまり(セル、降水セルとも言う)があり、下降気流や上昇気流の部分がそれぞれ複数存在し、まばらに分布している。このせいで、地上から見れば、積乱雲の移動に伴って雨が降ったり止んだり、雨の強さも変わりやすくなる。 |
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高山が多く分布する[[日本アルプス|中部山岳]]は、夏に毎日のように熱雷(夕立)がある多発地帯{{Sfn|気象予報士ハンドブック|pp=49-50}}。また[[北関東]]内陸の[[栃木県]]や[[群馬県]]は主に熱雷により雷日数が多くなる{{Sfn|気象予報士ハンドブック|pp=49-50}}。 |
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夕立は[[雷]]を伴うことが多い。積乱雲が成長する過程で、水滴や氷晶がぶつかり合って発生する[[静電気]]が大量に蓄積されるためで、雲から最初の雨が降り出すのに前後して雷が鳴り出す。 |
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夕立が通りやすい経路も知られているが、例えば谷筋沿いでは気流が集まるなど、地形の影響を受けると考えられる<ref>{{Cite book|和書|author=二宮洸三 |title=図解気象の大百科 |editor=二宮洸三、新田尚、山岸米二郎 |pages=153 |publisher=オーム社 |year=1997 |month=07 |isbn=4-274-02352-4 }}※熱雷の説明を本稿では夕立に置き換え</ref>。 |
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また、[[雹]]や[[霰]]が降ることもある。積乱雲は、雲自身が成長する過程で[[上昇気流]]を誘発して強める。この強い上昇気流によって、雲の中の氷晶が落下と上昇を繰り返すことで、解けてくっついて凍ってという成長のサイクルも繰り返されて氷晶が大きくなり、やがて落下する。静電気は水より氷のほうが起きやすいため、雷が激しいほど、雹が降る可能性も高い。雹が降るのは上昇気流が弱まり始めたときが多く、雹が降り出したら夕立が収まる前兆ともいえる。 |
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雨は強いが継続時間は短く、せいぜい2–3時間であり、範囲も狭く数キロメートル四方程度であるため、[[水害]]の規模は小さい。道路の冠水や小規模河川の氾濫が起こったり、山間部の傾斜が急な河川では[[鉄砲水]]が発生することがあるが、大規模な洪水が起こることはほとんどない。ただ、[[落雷]]による被害が起こる場合があり、ちょうど[[夏休み]]の時期で外出が増えるため、屋外で被害に遭う可能性は高い。また、稀にダウンバーストや竜巻による被害が発生することもある。 |
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=== 夕立の予測・予報 === |
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夕立が終わった後は雲も消えて晴れ間が広がり、気温も下がっているため過ごしやすくなる。但し、熱気が抜けきらないと、雨で[[湿度]]が上がり非常に蒸し暑くなることもある。[[虹]]が発生することも多い。 |
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積乱雲による急な大雨は、中小河川の急激な増水、屋外の活動に危険をもたらす落雷などで被害が出ることがある{{Sfn|急な大雨や雷・竜巻から身を守るために|p=3|ps=「「急な大雨」による災害」}}{{Sfn|急な大雨や雷・竜巻から身を守るために|p=4|ps=「「雷」による災害」}}。 |
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急な大雨・雷雨が予測されるとき、気象台が「雷[[注意報]]」を発表する{{Efn|雷注意報は、基本的に落雷被害が予想される時間帯の6 - 3時間前に発表される<ref name="jma-gc">{{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/cb_guideline.pdf |format=pdf |title=積乱雲に伴う激しい現象の住民周知に関するガイドライン |page=11 |publisher=気象庁 |year=2015 |month=03 |access-date=2024-08-06}}</ref>。}}ほか、早ければ前日から当日朝の段階で、様々な媒体の天気予報にて「急な強い雨」「雷を伴う」「[[大気安定度|大気の状態が不安定]]」「竜巻などの激しい突風」などの表現で注意が促される{{Sfn|急な大雨や雷・竜巻から身を守るために|p=6|ps=「気象情報をこまめに確認する」}}{{R|jma-gc}}。また、「一時」雷雨、「所により」雷雨などの表現も、(雷雨の分布が一様ではなく)不確かという性質を示す{{R|jma-w}}もので参考となる。 |
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リアルタイムの予報としては、気象庁は雨の5分ごと・1時間先までの短時間「予想[[降水ナウキャスト]]」や同様の雷や突風の予想を提供しており、[[スマートフォン]]などで確認できる。[[竜巻]]を含め突風の発生確率が高まると、1時間先まで注意を呼び掛ける[[竜巻注意情報]]も発表される。屋外で活動中の場合などは、こうした情報を随時確認し、黒い雲の接近、雷鳴、急な冷たい風といった積乱雲接近の兆候に注意することで、安全確保に生かすことができる{{Sfn|急な大雨や雷・竜巻から身を守るために|p=6|ps=「気象情報をこまめに確認する」}}{{Sfn|急な大雨や雷・竜巻から身を守るために|p=8|ps=「積乱雲が近づくサインを見逃さない」}}。 |
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リアルタイムの予報でも、6時間先まで予測する「降水短時間予報」は、どちらかといえば低気圧や前線など[[総観スケール]]の[[擾乱]]に伴う降水系の予測に向いていて、急発達する積乱雲による雨の高精度な予測は苦手とされ、降水ナウキャストの方が適している{{Sfn|気象予報士ハンドブック|p=53}}。 |
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夕立の雨は、遭遇してしまえば激しい降り方をする一方、降雨域が局地的なため、[[降水確率]]予報では概ね50%以下の低い値になることが多い。予報を受け取る側には、20%など低確率では大雨は降らないという誤解がしばしば生じる<ref name="岩谷2002">{{Cite journal|和書|author=岩谷忠幸 |title=気象報道の現場から |url=https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2002/2002_09_0783.pdf |format=pdf |work=気象談話室 |journal=天気 |publisher=日本気象学会 |volume=49 |issue=9 |pages=783-785 |year=2002 |month=09 |crid=1520572357485372928 }}</ref>。 |
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== 予報と警戒 == |
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夕立の発生を予報し防災に役立てる手段は、大きく2つ考えられる。1つは、夕立が発生しやすい気象状況を予報し周知するもので、数日前もしくは当日に分かるものである。もう1つは、夕立の発生後に雲の状況や移動方向・雨量などを予報し周知するもので、数時間もしくは数十分前に分かるものである。 |
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前者については、テレビ・新聞などでも使用される[[地上天気図]]のほか、[[高層天気図]]を用いて、全体的な大気の安定度を予測するもので、その日に夕立が起こりやすいかどうか程度の情報を得ることはできるが、具体的にどこで夕立が発生するかというのは、コンピュータの[[数値予報]]においても[[カオス理論|カオス]]的な結果しか出ないため、精度の高い予測は不可能である。「大気の状態が不安定」「夕立が起こりやすい」といった情報が発表される。レジャーなどで外出する際には、前日や当日にこういった情報を得て夕立に注意を払うことが可能である。 |
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=== 沖縄のカタブイ === |
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[[沖縄本島]]では夏期に局地的に降る雨'''カタブイ'''が知られている。漢字では片降い(片降り)で、空の片方だけ降るような様を表した言葉<ref name="jma-okn">{{Cite web|和書|url=https://www.data.jma.go.jp/okinawa/know/kisyokaisetsu/katabui/katabui.html |title=沖縄本島の陸上で発生する不安定性降水(方言:カタブイ)について |publisher=沖縄気象台 |access-date=2024-08-06}}</ref>。 |
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太平洋高気圧に覆われ晴れた風の弱い日の午後を中心に発生し、西風なら島の東側というように風下側に集中して発生する傾向がある。風速が概ね6 m/sを超えると生じにくい。年に数回程度、警報級の大雨となることがあり、川の急な増水による被害も過去に発生している{{R|jma-okn}}。 |
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後者については、日本ではこれまで[[ラジオゾンデ]]や[[レーウィンゾンデ]]から高層気象の状況を、[[気象レーダー]]から高精度の雨量データを集めて夕立の雲の移動や強さを把握し、予想していた。これに合わせて、降水量などに応じて大雨[[気象注意報|注意報]]・[[気象警報|警報]]、洪水注意報・警報、雷注意報が発表されていた。しかし、2005年からは[[ウインドプロファイラ]]から高層の風のデータを、2008年からは[[ドップラー・レーダー]]から広域的・立体的な風速を入手し、予想に役立てている。合わせて2008年から突風の発生を警戒するよう呼びかける[[竜巻注意情報]]も発表されるようになった。ただ、現在のところ情報の発表が間に合わない場合があるほか、積乱雲の発達の予測精度が低いという問題もある。夕立の発生後の警戒については、積乱雲が接近してきた場合に建物に退避するなどの行動をとれば、予報の情報が無くても被害を予防することができる。 |
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なお沖縄は温暖であるものの、夏の雷日数では[[那覇市]]は本州の沿岸部の諸都市と同じ程度となっている。これは大きな山岳がないためと考えられる{{Sfn|気象予報士ハンドブック|p=45}}。 |
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⚫ | [[台湾]]の夏季には台湾語で「サイパッホー(sai-pak-hō͘ )」(普通は西北雨と表記<ref>[http://twblg.dict.edu.tw/holodict_new/result_detail.jsp?n_no=2851&curpage=1&sample=%E8%A5%BF%E5%8C%97%E9%9B%A8&radiobutton=1&querytarget=1&limit=20&pagenum=1&rowcount=2 『教育部台灣閩南語常用詞辭典』]</ref><ref>[http://taigi.fhl.net/dict/search.php?DETAIL=1&LIMIT=id=49879&dbname=dic&graph=2 『台日大辭典』]</ref> |
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=== 日本以外 === |
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⚫ | [[台湾]]の夏季には台湾語で「サイパッホー(sai-pak-hō͘ )」(普通は西北雨と表記<ref>[http://twblg.dict.edu.tw/holodict_new/result_detail.jsp?n_no=2851&curpage=1&sample=%E8%A5%BF%E5%8C%97%E9%9B%A8&radiobutton=1&querytarget=1&limit=20&pagenum=1&rowcount=2 『教育部台灣閩南語常用詞辭典』]</ref><ref>[http://taigi.fhl.net/dict/search.php?DETAIL=1&LIMIT=id=49879&dbname=dic&graph=2 『台日大辭典』]</ref>)と呼ばれる猛烈な夕立が多い。 |
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== 雷との連動 == |
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[[関東地方]][[内陸]]部の[[栃木県]]、[[群馬県]]は夕立による雷の発生が多いことで有名である。 |
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夕立に伴う雷の予測として「急に冷たい風が吹く」や「AMラジオに〝バリバリ〟とノイズが入る」と雷雲が近いと言われている。ただAMラジオの場合100km先の雷活動でもノイズとして受かることがあるので、目視による雷雲の監視と併せて予測しないと過剰に警戒をすることにもなる。 |
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{{Notelist}} |
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=== 出典 === |
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== 参考文献 == |
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* {{Cite book|和書|editor=[[日本気象学会]] |title=気象科学事典 |publisher=東京書籍 |year=1998 |isbn=4-487-73137-2 |ref={{SfnRef|気象科学事典}} }} |
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* {{Cite book|和書|editor=[[新田尚]]、住明正、伊藤朋之、野瀬純一 |title=気象ハンドブック |edition=3 |publisher=朝倉書店 |year=2005 |month=09 |isbn=978-4-254-16116-8 |ref={{SfnRef|気象ハンドブック}} }} |
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* {{Cite book|和書|editor=日本気象予報士会 |title=気象予報士ハンドブック |publisher=オーム社 |year=2008 |month=11 |isbn=978-4-274-20635-1 |ref={{SfnRef|気象予報士ハンドブック}} }} |
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* {{Cite book|和書|other=[[森田正光]](監修) |title=散歩が楽しくなる 空の手帳 |publisher=東京書籍 |year=2020 |page=57 |isbn=978-4-487-81334-6 |ref={{SfnRef|森田(監修)|2020}} }} |
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* {{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tenki_chuui/tenki_chuui_p1.html |title=急な大雨や雷・竜巻から身を守るために |publisher=気象庁 |access-date=2024-08-06 |ref={{SfnRef|急な大雨や雷・竜巻から身を守るために}} }} |
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2024年8月6日 (火) 18:59時点における版
夕立(ゆうだち)は、夏の午後、昼過ぎから夕方ごろ降る雨[1]。強い日射のため雨雲が発達するもので[1]、短い時間に激しく降り、雷を伴うことが多い[1][2][3]。
語義
古語としては、雨に限らず、風・波・雲などが夕方に起こり立つことを動詞で「夕立つ(ゆふだつ)」と呼んだ[4]。「立つ」はこうした自然の動きが目に見えるようになることを表す[5]。その名詞形が「夕立(ゆふだち)」である。
ただし一説に、天から降りることを「タツ」といい、雷神が斎場に降臨することを夕立と呼ぶとする[6]。
季語・用例
夏の季語[5]で、夏の風物詩ともされる[7]。夕立ちの表記もある。歳時記などではゆだち、
「夕立」の確認されている初出は『万葉集』で、『うつほ物語』などにも見える[5]。「夕立つ」の初出は『紫式部集』[4]。もとは晩夏から初秋の言葉だったが、『新古今和歌集』のころから夏の言葉として定着したとされている[5]。
夕立ちの 雨降るごとに 春日野の 尾花が上の 白露思ほゆ — 『万葉集』第10巻2169番[8]
かきくもり 夕立つ浪の 荒ければ 浮きたる舟ぞ しづ心なき — 『紫式部集』
夕立の来て蚊柱を崩しけり — 正岡子規
気象における使用
気象用語としては、観測の分野では使わず[9]、気象庁では報道発表資料や予報解説資料などに限って夏期に使うことがある「解説用語」の扱いとなっている[10][11]。予報の分野では、一般向け天気予報の解説の場面では用いられてきた。
「夕立」の新聞記事における使用頻度は1990年代から2010年代にかけて有意な変化が見られないとする報告がある一方[12]、近年はテレビやネットニュースを中心に「ゲリラ豪雨」の使用が増えているとされる[13]。
気象学的特徴
夕立の特徴は次の通り。
- 降雨 - 降雨の継続時間は数十分から2時間程度[2][14]。降雨域の分布は局地的、散在的[14]。上空に寒気が侵入してきたときは降り方が強まる傾向がある[1]。ベースは個々の降水セルが独立に活動するシングルセル雷雨(気団性雷雨)で、ガストフロント上に新たなセルが単発的に生じる程度だが、鉛直シアが大きいときには組織化されたマルチセルになりより長く活動することがある[14][15]。成因別では対流性降雨の性質が強い。
- 雷 - よく雷を伴い[1][2]、ときに
霰 ()や雹 ()、突風も伴う[2][16]。 - 雷の成因(もしくは積乱雲発達の原因)としては、主に熱雷[17]、つまり強い日射加熱に起因する大気下層の不安定が上昇流を生み対流を駆動する性質をもつ[17][15]。ただし、前線(とくに寒冷前線の南下)の影響を受けて界雷(熱雷・界雷2つの性質をもつことを重視して熱的界雷や熱界雷といったりもする)となったり[17]、低気圧や台風、上空の寒冷渦などの影響を受けて渦雷となったりする[15]。熱雷であっても寒気の影響を受けるなど、複合的な成因となることは少なくない[17]。
「夕立は馬の背を分ける」ということわざがある。馬の背の片側だけ雨に濡れ反対側は乾いていることがあるというもので、あるいは「馬の背」は山の尾根を指すとも考えられるが、降雨の範囲が狭く降る所と降らないところが分かれるという夕立の性質を伝えている[1][18]。
活発な雷雨の後には、ふつう涼しい風が吹くことが多い[9]。
上空に寒気が侵入すると、大気の不安定度は強まり雷雨も激しくなる[17][19]。寒気は上空の寒冷渦や気圧の谷(トラフ)[15]。侵入してくる寒気の南東側は雷雨が激しくなることが多いが、これは上空寒気に対して南東に下層の暖湿流が入るため[19]。
日本に張り出していた太平洋高気圧が一時的に後退するのに伴い、寒気が侵入し、夕立の発生が促されるパターンがある[17][20]。8月の後半に入るとこれが起こりやすい[21]。
寒気が強いときは、雷雨が夜遅くまで継続することがある[22]。そして、このような天候で(夕立の語義からは外れるが)夜間や朝に降る雨は大雨になることがある[9]。
夕立を起こす積乱雲は、東寄りに移動することが多いが、春や秋の低気圧や高気圧が同じように移動するのに比べ、その頻度は低い。夏の時期は強い偏西風が日本の北方に北上してしまっているため、日本上空の偏西風が弱く、夏の南東季節風の影響力が強いためである。気圧配置次第ではさまざまな方向に積乱雲が移動するため、その日の風の状況を知らなければ移動方向を予測するのは難しい。
夕立が過ぎた雨上がりにはしばしば虹ができる。夕立のためこの時期に虹が多いことから、虹は夏の季語となっている[23]。
地形の影響と地域差
内陸や山地は雷雲が発生しやすく、平野部よりも早い時間帯から発生がみられることがある[17][15]。山の斜面は熱的に斜面上昇風が生じやすく、風に押された空気の力学的な上昇(強制上昇)が生じやすいことが関係している[15]。また長野県の夏の雷雨の例では、山の南斜面に積乱雲が発生しやすい傾向がある[22]。
雷雲の活動がほとんど山地に限られる場合、山地から平野へと活動域が拡大または遷移していく場合があり、これらは太平洋高気圧に覆われて前線などがないときに多い[15]。前線や台風が接近・通過するときには、山地でも平野でも雷雲の活動が活発なパターンがよくみられる[15]。頻度は少ないが、局地的なスケールの収束線に伴い平野だけで雷雲がみられるパターンも見いだされている[15]。
高山が多く分布する中部山岳は、夏に毎日のように熱雷(夕立)がある多発地帯[24]。また北関東内陸の栃木県や群馬県は主に熱雷により雷日数が多くなる[24]。
夕立が通りやすい経路も知られているが、例えば谷筋沿いでは気流が集まるなど、地形の影響を受けると考えられる[25]。
また近年は、ヒートアイランド現象による都市の高温化や高層ビル群に起因する上昇気流が、積乱雲のできやすい状況を作っているのではないかという指摘もある。
夕立の予測・予報
積乱雲による急な大雨は、中小河川の急激な増水、屋外の活動に危険をもたらす落雷などで被害が出ることがある[26][27]。
急な大雨・雷雨が予測されるとき、気象台が「雷注意報」を発表する[注釈 1]ほか、早ければ前日から当日朝の段階で、様々な媒体の天気予報にて「急な強い雨」「雷を伴う」「大気の状態が不安定」「竜巻などの激しい突風」などの表現で注意が促される[29][28]。また、「一時」雷雨、「所により」雷雨などの表現も、(雷雨の分布が一様ではなく)不確かという性質を示す[11]もので参考となる。
リアルタイムの予報としては、気象庁は雨の5分ごと・1時間先までの短時間「予想降水ナウキャスト」や同様の雷や突風の予想を提供しており、スマートフォンなどで確認できる。竜巻を含め突風の発生確率が高まると、1時間先まで注意を呼び掛ける竜巻注意情報も発表される。屋外で活動中の場合などは、こうした情報を随時確認し、黒い雲の接近、雷鳴、急な冷たい風といった積乱雲接近の兆候に注意することで、安全確保に生かすことができる[29][30]。
リアルタイムの予報でも、6時間先まで予測する「降水短時間予報」は、どちらかといえば低気圧や前線など総観スケールの擾乱に伴う降水系の予測に向いていて、急発達する積乱雲による雨の高精度な予測は苦手とされ、降水ナウキャストの方が適している[19]。
夕立の雨は、遭遇してしまえば激しい降り方をする一方、降雨域が局地的なため、降水確率予報では概ね50%以下の低い値になることが多い。予報を受け取る側には、20%など低確率では大雨は降らないという誤解がしばしば生じる[31]。
類似現象
沖縄のカタブイ
沖縄本島では夏期に局地的に降る雨カタブイが知られている。漢字では片降い(片降り)で、空の片方だけ降るような様を表した言葉[32]。
太平洋高気圧に覆われ晴れた風の弱い日の午後を中心に発生し、西風なら島の東側というように風下側に集中して発生する傾向がある。風速が概ね6 m/sを超えると生じにくい。年に数回程度、警報級の大雨となることがあり、川の急な増水による被害も過去に発生している[32]。
なお沖縄は温暖であるものの、夏の雷日数では那覇市は本州の沿岸部の諸都市と同じ程度となっている。これは大きな山岳がないためと考えられる[33]。
日本以外
台湾の夏季には台湾語で「サイパッホー(sai-pak-hō͘ )」(普通は西北雨と表記[34][35])と呼ばれる猛烈な夕立が多い。
熱帯地方のスコールに伴う降雨も昼過ぎに多発するが、発生する時期が長い。対流活動が活発で水蒸気の量も多いため、雨などがより激しい。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f 気象科学事典, p. 513「夕立」(著者: 宮澤清治)
- ^ a b c d 内田英治「夕立」『平凡社『改訂新版世界大百科事典』』 。コトバンクより2024年8月3日閲覧。
- ^ 「夕立」『『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』』 。コトバンクより2024年8月3日閲覧。
- ^ a b 「夕立つ」『小学館『精選版日本国語大辞典』』 。コトバンクより2024年8月3日閲覧。
- ^ a b c d 「夕立」『小学館『精選版日本国語大辞典』』 。コトバンクより2024年8月3日閲覧。
- ^ 『広辞苑』(5版)「夕立」[要ページ番号]
- ^ a b 森田(監修) 2020, p. 57.
- ^ 『万葉集 第十巻』。ウィキソースより閲覧。
- ^ a b c 平塚和夫「夕立」『小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』』 。コトバンクより2024年8月3日閲覧。
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参考文献
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- 『散歩が楽しくなる 空の手帳』東京書籍、2020年、57頁。ISBN 978-4-487-81334-6。
- “急な大雨や雷・竜巻から身を守るために”. 気象庁. 2024年8月6日閲覧。