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'''喜多川 月麿'''(きたがわ つきま、生年不明 - [[文政]]13年([[1830]]))は、[[江戸時代]]の[[浮世絵師]]。
'''喜多川 月麿'''(きたがわ つきま[[年不]]<ref>『浮世絵の基礎知識』(吉田漱 雄山閣、1987年)は没年を文政13年(1830)としているが(96頁)、天保7年(1836年)刊行の『十符の菅薦』の挿絵を描いていることからこの頃まで存命だったと見られ、没年も定かではない。</ref>)とは、[[江戸時代]]の[[浮世絵師]]。
==来歴==
月麿は、[[喜多川歌麿]]の門人。小川千助(または六三四)といい、名は潤、字は子達(士達)。初名を菊麿([[寛政]]より使用)といい、[[享和]]2年(1802年)から喜久麿、[[文化 (元号)|文化]]元年(1804年)から月麿と名乗る。その文化元年、師である歌麿とともに、手鎖に処せられた。また、墨亭、観雪、逎斎などとも号す。[[錦絵]]より、[[草双紙]]の挿絵や、肉筆美人画に手腕を発揮している。作品は、月麿落款の頃は、師・歌麿の晩年の画風を追うものが多いが、文化以降は[[葛飾北斎]]風となり、観雪落款となると[[渓斎英泉]]風の美人画になっている。


== 来歴 ==
代表作として、肉筆美人画の「姫君図」([[東京国立博物館]]所蔵)、「仕掛をなおす花魁図」(浮世絵太田記念美術館所蔵)、「美人図」(京都府立総合資料館所蔵・京都文化博物館管理)が挙げられる。「姫君図」は、縁先近くの青い畳に立つ、うら若き姫君
[[喜多川歌麿]]の門人。姓は小川、名は潤。俗称千助(または六三郎)、[[字]]は子達(士達)。墨亭、遒斎、のちに観雪と号した。初名を'''菊麿'''([[寛政]]ごろより使用)、[[享和]]2年(1802年)以降に'''喜久麿'''、[[文化 (元号)|文化]]元年(1804年)からは月麿と名乗ったという。その文化元年に師である歌麿とともに手鎖に処せられた。[[錦絵]]より[[草双紙]]の挿絵や[[肉筆画|肉筆]][[美人画]]に手腕を発揮し、特に[[十返舎一九]]とは関係が深かったらしく、一九の戯作でしばしば挿絵を担当している。作品は、月麿落款の頃は師の歌麿の晩年の画風を追うものが多い。文化期以降は[[葛飾北斎]]風となり、観雪と号して後は浮世絵の製作からは離れたといわれているが、「観雪」と落款した肉筆美人画が残っており、[[渓斎英泉]]風に画風が変化している。ただしその描写や画題には[[上方]]の[[四条派]]などの影響も認められ、上方の地において絵の修行をしていた可能性が指摘されている。
を描き、遠景には水墨で富士山が描かれているが、特別な意味が込められているのかは明らかでない。容貌は端正ながら唇に笹紅色を差すことで妖艶さも加わり、桜を散らした地に絞りで「春」、「梅」の文字をあしらった春尽くしの打掛は華麗な濃彩で処理されており、月麿の肉筆画の特徴を余すところなく示した作品に仕上がっている。
==作品==
* 「姫君図」 絹本着色 [[東京国立博物館]]所蔵)、
* 「仕掛をなおす花魁図」 紙本着色 浮世絵太田記念美術館所蔵
* 「遊女立姿図」 紙本着色 浮世絵太田記念美術館所蔵
* 「美人花見の図」 絹本着色 浮世絵太田記念美術館所蔵
* 「萩と女図」 絹本着色 光記念館所蔵
* 「美人図」 紙本着色 京都府立総合資料館所蔵(京都文化博物館管理)
* 「二美人図」 紙本着色 心遠館(アメリカ)所蔵 無款


==関連項目==
== 作品 ==
=== 版本挿絵 ===
* [[浮世絵#代表的な浮世絵師]]
* 『讐敲夜居鷹』三巻 ※十返舎一九作、「菊麿」挿絵。享和2年刊行
* [[浮世絵師一覧]]
* 『[{{NDLDC|9892410}} 貧福一代の早替]』二巻 ※百亭貫斗作、「喜久麿」挿絵。享和3年刊行
* 『[{{NDLDC|8929277}} 跡着衣装]』五巻一冊 ※一九作、「喜久麿」挿絵。文化元年刊行
* 『[{{NDLDC|8929392}} 復讐阿部花街]』三巻 ※一九作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
* 『阿部花街/後編 恋仇被形容』二巻 ※一九作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
* 『[https://www.dh-jac.net/db1/books/results1280.php?f1=hayBK03-0233&f12=1&enter=portal&lang=ja&skip=0&-max=1&enter=portal&lang=ja 二代順礼/両度讐敵 奉打札所誓]』三巻 ※[[曲亭馬琴]]作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
* 『[https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_02946_0164/index.html 滑稽しつこなし]』三巻 ※一九作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
* 『[{{NDLDC|9892995}} 花紅葉二人鮟鱇]』三巻 ※内新好作、「月麿」挿絵。文化2年刊行 


==参考図書==
=== 肉筆画 ===
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* 浮世絵 [[藤懸静也]]、雄山閣、1924年
!作品名
* 増訂浮世絵 藤懸静也、雄山閣、1973年
!技法
* 日本の美術250 肉筆浮世絵III 楢崎宗重編、至文堂、1987年
!形状・員数
* 肉筆浮世絵大観(2) 東京国立博物館II 小林忠、講談社、1995年
!寸法(縦x横cm)
* 肉筆浮世絵大観(9) 奈良県立美術館/京都府立総合資料館 小林忠、講談社、1996年
!所有者
!年代
!落款・印章
!備考
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|月次絵<ref>[[楢崎宗重]] 「喜多川月麿の肉筆浮世絵について」『[[国華]]』第1096号、1986年8月、pp.p40-50。</ref><ref>[[原田平作]] 「徳井寛二氏の日本美術里帰りコレクション」(『美術フォーラム21』第2号、醍醐書房、2000年5月、ISBN 978-4-925185-07-3)。</ref>
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|無款、箱書に「菊麿筆」とあり
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|}

==脚注 ==
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== 参考文献 ==
* [[井上和雄 (浮世絵研究者)|井上和雄]]編 『浮世絵師伝』 渡辺版画店、1931年 ※[{{NDLDC|1186832}} 国立国会図書館デジタルコレクション]に本文あり。108コマ目。
* 藤懸静也 『増訂浮世絵』 雄山閣、1946年 ※[{{NDLDC|1068936}} 国立国会図書館デジタルコレクション]に本文あり。162頁、117コマ目。
* 日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』(第2巻) 大修館書店、1982年
* サントリー美術館編 『異色の江戸絵画』 サントリー美術館 1984年
* 楢崎宗重編 『肉筆浮世絵Ⅲ(化政~明治)』〈『日本の美術』250〉 至文堂、1987年 ※30 - 31頁
<!--* 吉田漱 『浮世絵の基礎知識』 雄山閣、1987年-->
* 『小針コレクション 肉筆浮世絵』(第四巻) 那須ロイヤル美術館、1989年
* 棚橋正博 『黄表紙総覧 後篇』〈『日本書誌学大系』48 - 3〉 青裳堂書店、1989年
* 『東京国立博物館所蔵 肉筆浮世絵』 東京国立博物館、1993年 ※113 - 114頁
* 小林忠編 『肉筆浮世絵大観(9) 奈良県立美術館/京都府立総合資料館』 講談社 1996年
* 国際浮世絵学会編 『浮世絵大事典』 東京堂出版、2008年

== 関連項目 ==
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2022年8月7日 (日) 01:57時点における最新版

喜多川 月麿(きたがわ つきまる、生没年不詳[1])とは、江戸時代浮世絵師

来歴

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喜多川歌麿の門人。姓は小川、名は潤。俗称千助(または六三郎)、は子達(士達)。墨亭、遒斎、のちに観雪と号した。初名を菊麿寛政ごろより使用)、享和2年(1802年)以降に喜久麿文化元年(1804年)からは月麿と名乗ったという。その文化元年に師である歌麿とともに手鎖に処せられた。錦絵より草双紙の挿絵や肉筆美人画に手腕を発揮し、特に十返舎一九とは関係が深かったらしく、一九の戯作でしばしば挿絵を担当している。作品は、月麿落款の頃は師の歌麿の晩年の画風を追うものが多い。文化期以降は葛飾北斎風となり、観雪と号して後は浮世絵の製作からは離れたといわれているが、「観雪」と落款した肉筆美人画が残っており、渓斎英泉風に画風が変化している。ただしその描写や画題には上方四条派などの影響も認められ、上方の地において絵の修行をしていた可能性が指摘されている。

作品

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版本挿絵

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  • 『讐敲夜居鷹』三巻 ※十返舎一九作、「菊麿」挿絵。享和2年刊行
  • 貧福一代の早替』二巻 ※百亭貫斗作、「喜久麿」挿絵。享和3年刊行
  • 跡着衣装』五巻一冊 ※一九作、「喜久麿」挿絵。文化元年刊行
  • 復讐阿部花街』三巻 ※一九作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
  • 『阿部花街/後編 恋仇被形容』二巻 ※一九作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
  • 二代順礼/両度讐敵 奉打札所誓』三巻 ※曲亭馬琴作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
  • 滑稽しつこなし』三巻 ※一九作、「月麿」挿絵。文化2年刊行
  • 花紅葉二人鮟鱇』三巻 ※内新好作、「月麿」挿絵。文化2年刊行 

肉筆画

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作品名 技法 形状・員数 寸法(縦x横cm) 所有者 年代 落款・印章 備考
姫君図 絹本着色 1幅 108.3x40.6 東京国立博物館 款記「墨亭月麿筆」/「墨亭」朱文方印・「月麿」白文重郭方印
桜黒木売美人図 1幅 40.9x51.5 東京国立博物館
仕掛をなおす花魁図 紙本着色 1幅 浮世絵太田記念美術館
遊女立姿図 紙本着色 1幅 浮世絵太田記念美術館
美人花見の図 絹本着色 1幅 浮世絵太田記念美術館
萩と女 絹本着色 1幅 82.0x29.0 光ミュージアム 款記「菊麿筆」/「喜久麿」の朱文方印 那須ロイヤル美術館(小針コレクション)旧蔵。菊麿と喜久麿を併記していることから改名前後の作か[2]
遊女 絹本着色 1幅 款記「喜久麿筆」/「南山」朱文方印 那須ロイヤル美術館(小針コレクション)旧蔵
美人図 紙本着色 1幅 京都府立総合資料館所蔵(京都文化博物館管理)
南部信房公肖像 紙本着色 1幅 八戸俳諧倶楽部
四季草木図 紙本着色 六曲一双押絵貼 135.2x56.2(各) 個人(愛媛県美術館寄託 梅図(正月)に款記「墨亭月麿寫」/「月麿之印」白文方印・「墨亭」白文方印
松樹(十二月)に款記「墨亭月麿寫」/「月麿」白文方印・「墨亭」朱文方印
月次絵[3][4]
二美人図 紙本着色 1幅 124.5x56.0 心遠館(プライスコレクション[5] 無款、箱書に「菊麿筆」とあり

脚注

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  1. ^ 『浮世絵の基礎知識』(吉田漱 雄山閣、1987年)は没年を文政13年(1830年)としているが(96頁)、天保7年(1836年)刊行の『十符の菅薦』の挿絵を描いていることからこの頃まで存命だったと見られ、没年も定かではない。
  2. ^ 鈴木浩平 永田生慈南由紀子編集 『光ミュージアム所蔵 美を競う 肉筆浮世絵の世界』 アートシステム、2019年 、第36図。
  3. ^ 楢崎宗重 「喜多川月麿の肉筆浮世絵について」『国華』第1096号、1986年8月、pp.p40-50。
  4. ^ 原田平作 「徳井寛二氏の日本美術里帰りコレクション」(『美術フォーラム21』第2号、醍醐書房、2000年5月、ISBN 978-4-925185-07-3)。
  5. ^ 辻惟雄監修 仙台市博物館ほか編集 『東日本大震災復興支援 若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命 展覧会カタログ』 日本経済新聞社、2013年、第69図、ISBN 978-4-907243-00-5

参考文献

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  • 井上和雄編 『浮世絵師伝』 渡辺版画店、1931年 ※国立国会図書館デジタルコレクションに本文あり。108コマ目。
  • 藤懸静也 『増訂浮世絵』 雄山閣、1946年 ※国立国会図書館デジタルコレクションに本文あり。162頁、117コマ目。
  • 日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』(第2巻) 大修館書店、1982年
  • サントリー美術館編 『異色の江戸絵画』 サントリー美術館 1984年
  • 楢崎宗重編 『肉筆浮世絵Ⅲ(化政~明治)』〈『日本の美術』250〉 至文堂、1987年 ※30 - 31頁
  • 『小針コレクション 肉筆浮世絵』(第四巻) 那須ロイヤル美術館、1989年
  • 棚橋正博 『黄表紙総覧 後篇』〈『日本書誌学大系』48 - 3〉 青裳堂書店、1989年
  • 『東京国立博物館所蔵 肉筆浮世絵』 東京国立博物館、1993年 ※113 - 114頁
  • 小林忠編 『肉筆浮世絵大観(9) 奈良県立美術館/京都府立総合資料館』 講談社 1996年
  • 国際浮世絵学会編 『浮世絵大事典』 東京堂出版、2008年

関連項目

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