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全通甲板構造による複数機同時発着能力、支援設備による高度な整備支援能力、大型格納庫による多数機収容能力、高度なC4Iシステムによる航空管制能力を備え、通常は、[[SH-60J (航空機)|SH-60J]]または[[SH-60K (航空機)|SH-60K]]哨戒ヘリコプターを3機搭載する。この定数は、前任者であるはるな型やしらね型と同じで、必要時には、これに加えて[[アグスタウェストランド AW101|MCH-101]]掃海・輸送ヘリコプターを1機搭載することができる。 |
全通甲板構造による複数機同時発着能力、支援設備による高度な整備支援能力、大型格納庫による多数機収容能力、高度なC4Iシステムによる航空管制能力を備え、通常は、[[SH-60J (航空機)|SH-60J]]または[[SH-60K (航空機)|SH-60K]]哨戒ヘリコプターを3機搭載する。この定数は、前任者であるはるな型やしらね型と同じで、必要時には、これに加えて[[アグスタウェストランド AW101|MCH-101]]掃海・輸送ヘリコプターを1機搭載することができる。 |
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格納庫は、SH-60哨戒ヘリコプターであれば1個[[護衛艦隊#護衛艦隊の編成|護衛隊群]]の定数に相当する8機、MCH-101であれば4機収容できる広さを持って |
整備区画とエレベーターを含む格納庫部の全長は120m、幅は19m-20mであり<ref>世界の艦船2007年11月号83ページ</ref>、60m×19mの格納庫のみでSH-60哨戒ヘリコプターであれば1個[[護衛艦隊#護衛艦隊の編成|護衛隊群]]の定数に相当する8機、MCH-101であれば4機収容できる広さを持っている。また格納庫は防火シャッターにより前後2区画に仕切ることもできる。また、後部[[航空母艦#装置・装備|エレベータ]]をはさんで格納庫の後方には整備区画が設けられ、艦内でメインローターを広げたまま整備を行うことができる。飛行甲板から格納庫をむすぶエレベータは、格納庫の前後に2基が装備されており、後方エレベータは幅13メートルで、SH-60がローターを広げた状態で積載できるため、飛行甲板から整備区画に直接移動させることができる。前方エレベータは幅10メートルで、やや小型となっている。また、ヘリコプターに搭載する[[対艦ミサイル]]や[[魚雷]]などを輸送する弾薬用のエレベータも前後2基装備する。飛行甲板には4機分のヘリスポットが装備されており、3機の同時運用が可能。舷側エレベータは採用していない。 |
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大規模災害発生時には、第72航空隊、第73航空隊の[[UH-60J (航空機)#UH-60J 救難ヘリコプター|UH-60J救難ヘリコプター]]を搭載し、洋上救援基地として利用する。 |
大規模災害発生時には、第72航空隊、第73航空隊の[[UH-60J (航空機)#UH-60J 救難ヘリコプター|UH-60J救難ヘリコプター]]を搭載し、洋上救援基地として利用する。 |
2011年2月24日 (木) 06:08時点における版
ひゅうが型護衛艦 | ||
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日米合同演習ANNUALEX 21G(2009年)に参加する「ひゅうが」 | ||
艦級概観 | ||
艦種 | ヘリコプター搭載護衛艦(DDH) | |
艦名 | 旧国名[1] | |
建造期間 | 2006年 - 2009年 | |
就役期間 | 2009年 - 就役中(1隻艤装中) | |
前級 | DDH:しらね型護衛艦 | |
次級 | DDH:19500トン型護衛艦 | |
性能要目 | ||
排水量 | 基準:13,950トン[2] | |
満載:19,000トン(推定値) | ||
全長 | 197m | |
全幅 | 33m | |
高さ | 48m | |
吃水 | 7m | |
機関 | COGAG方式 2軸推進 | |
LM2500ガスタービンエンジン(100,000ps) | 4基 | |
速力 | 30ノット | |
航続距離 | ||
乗員 | 約340 - 360名[3] | |
兵装 | 高性能20mm機関砲(CIWS) | 2基 |
12.7mm機銃M2 | 7基 | |
Mk 41 VLS (16セル)• ESSM 短SAM |
1基 | |
HOS-303 3連装短魚雷発射管 | 2基 | |
艦載機[4] | SH-60K哨戒ヘリコプター | 3機 |
MCH-101掃海・輸送ヘリコプター | 1機 | |
最大積載機数 | 11機 | |
C4I | MOFシステム | |
GCCS-M | ||
NTDS (リンク 11/リンク 14/リンク 16) | ||
OYQ-10 戦術情報処理装置 | ||
FCS-3 射撃管制装置 | ||
レーダー | FCS-3 多機能レーダー(捜索用、FC用アンテナ各4面) | 1基 |
OPS-20改 対水上レーダー | 1基 | |
ソナー | OQQ-21 統合ソナー・システム | |
電子戦・ 対抗手段 |
NOLQ-3C 統合電子戦システム | |
Mk 36 SRBOC 対抗手段システム (Mk.137 チャフ・フレア発射機×4基) |
ひゅうが型護衛艦(ひゅうががたごえいかん、JMSDF DDH Hyūga class)は海上自衛隊の護衛艦。ヘリコプター搭載護衛艦 (DDH)である。海上自衛隊が過去に保有した護衛艦の中で全長、排水量共に最大規模の艦型で、1番艦である「ひゅうが」は2004年(平成16年)度予算で建造が行われた為16DDH、2番艦「いせ」は平成18年(2006年)度予算で建造された為18DDHとも呼ばれる。
概要
非常に強力な航空機運用能力をもつことで知られるほか、強化型MOFシステム(海上作戦部隊指揮管制支援システム)、国産の防空戦闘システムであるFCS-3をはじめとする新開発のC4Iシステムを採用し、旗艦としての指揮統制能力が強化されている。また災害派遣など、人道支援任務への応用も期待されている。
船形としては、航空母艦や強襲揚陸艦同様の全通甲板構造を採用している。艦型も大型化されており、同時期の軽空母や強襲揚陸艦の一部よりも大型ですらある。このことから、事実上のヘリ空母として述べられることも多く、ハリアーのようなSTOVL型の戦闘機を搭載した軽空母と比較される場合もあるが、公式には固定翼機の運用は想定・計画されていないとされている。海上自衛隊は、前任者を踏襲して、「ヘリコプター搭載護衛艦」に種別している。
計画の経緯
海上自衛隊が1973年(昭和48年)の就役より運用してきたはるな型の1番艦「はるな」の老朽化が進んだため、後継として代艦建造計画が2000年(平成12年)の中期防閣議にて閣議決定され、3つの船型案が提示された。
- 従来までのDDHと同様に前部に構造物を持ち、後部を発着甲板とする案
- 艦橋構造物で前後の甲板を分断し、艦橋の前後にヘリコプター甲板を持たせる案
- 艦の全長に渡って障害物のない発着甲板を有する全通甲板型とする案
3つの案のうち、当初は第2案が、予想図では無く「イメージ図」という用語を伴って発表された。この図の段階でマストや煙突は右舷側に寄せられており、左舷側には前後の発着甲板をつなぐ大型のシャッターや大きな艦橋が置かれているだけだった。このため、実際の船型は全通甲板の第3案に内定しており、航空母艦に近い形状で世論の反発を買うことがないように作った図であるとも言われている[5]。2003年(平成15年)には、ヘリコプターの同時運用能力を高めるとの理由で、第3案の船型へと改められた予想図が発表された。
1番艦に続き、2005年(平成17年)度予算で2番艦が要求される予定であったが、ミサイル防衛関連に防衛予算全体が圧迫された為この要求は先送りとなり、2006年(平成18年)度予算で要求が行われ、その建造が認められた。
船体
ヘリコプター運用能力、護衛隊群旗艦能力をはるな型より発展させる事が要求されたことと、各種の能力向上もあり、基準排水量は歴代自衛艦で最大の13,950tとなった。満載排水量は推定で19,000tとされ、イタリア海軍の「ジュゼッペ・ガリバルディ」やスペイン海軍の「プリンシペ・デ・アストゥリアス」、タイ王国海軍の「チャクリ・ナルエベト」などの軽空母と同等か上回っており、イギリス海軍のヘリコプター揚陸艦「オーシャン」よりは小さい[6]。
船型、装備も従来の駆逐艦、護衛艦と異なるが、海上自衛隊では、ヘリコプター(H)による潜水艦駆逐(DD)を任務とするため、ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)と分類している。VLSから発射する艦対空ミサイルを主な装備として速射砲は持たず、単艦での戦闘は考慮されていない。
設計時点で固定翼V/STOL機の運用は考慮されておらず、これらの機体を搭載する諸外国の艦の多くが設置しているスキージャンプ勾配も持たない。なお強度的には大型のMH-53Eヘリコプターを運用可能なように設計されている。MH-53Eの全備重量は33.3トンにおよび、ハリアーIIなどの戦闘機を凌駕するものとなっている。
艦橋構造物は右舷に寄せられ、艦首から艦尾まで全通した上甲板(全通甲板)は飛行甲板を兼ね、ヘリコプター3機の同時発着艦を可能としている。艦体の後方3分の1程度が平らなヘリコプター甲板だった従来のDDHや、最初に発表された予想図のような艦形の艦船では不可能だったヘリコプター複数機の同時発着艦運用を可能としている。また、艦橋が視界を遮ったり気流を乱す事も少なくなり、ヘリコプターの着艦作業も容易になった。
艦体や上部構造物はステルス性を考慮して側面には傾斜がつけられ、表面は平滑に整形されている。
船内には旗艦としての運用に備えて司令公室、幕僚事務室、司令部要員の居住スペースを備えるほか、緊急の災害対策本部としての使用も可能なように大型会議室などの設備もある。また、戦闘を任務とする海上自衛隊の艦船としては初めて、設計段階から女性自衛官の居住スペースが確保された。女性自衛官は、17名が乗艦する。
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平面図
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ステルス性を考慮した檣楼(艦橋構造物)
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甲板面積を確保する為、左舷側がより広くされている
従来のDDHとの比較
ひゅうが型 | はるな型 | しらね型 | |
---|---|---|---|
高性能20mm機関砲 2基 12.7mm機銃 7基 Mk41 VLS:16セル(ESSM、VLA) 1基 短魚雷3連装発射管 2基 |
54口径5インチ単装速射砲 2門 高性能20mm機関砲 2基 シースパロー8連装発射機 1基 アスロック8連装発射機 1基 短魚雷3連装発射管 2基 | ||
しらね型との排水量増大の内訳
- しらね型:約5,200トン、ひゅうが型:約13,950トン
- +約8,750トンの増大
- 情報・指揮通信能力の向上…多目的区画の設置等
- +約480トン
- ヘリコプター運用能力の向上…格納/整備スペースの増設、昇降機×2基の搭載等
- +約3,230トン
- 装備武器の能力向上…水上艦用ソナー、射撃指揮装置の装備等
- +約830トン
- 機関、発電能力の向上…エンジン、発電機の重量増等
- +約1,120トン
- 抗堪性、居住性の向上…機関区画の2重構造化、二段ベッド化・レストエリア追加等
- +約2,940トン
従来のDDHは広いヘリコプター甲板と大きな格納庫を持ち、他の護衛艦に比べればヘリ運用能力が高かったが、それでもヘリコプターは、20分おきに1機しか発着艦できなかった。そのため、飛行中のヘリコプターに問題が起こった時すぐに着艦が出来ない場合があるなど、運用には制約があった。また、格納庫内ではメインローターを広げての整備が行えなかった為、そのような重整備を行う場合には甲板上に出す必要があり、その間発着艦を行う事は出来ず、そもそも悪天候の場合にその様な作業を行う事も出来なかった。
これに対してひゅうが型は、同時に哨戒ヘリコプター3機が発着艦が可能で、さらに輸送用ヘリなどの発着スポットも1つ備える。格納庫と甲板上を合わせて最大11機のヘリコプターを搭載可能であり、広い整備スペースでメインローターを広げ、天候や他のヘリの発着艦に影響されずに整備も出来るようになった。[7]。
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甲板の下にある格納庫から後部昇降機を見る
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甲板の下にある格納庫から前部昇降機を見る
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甲板の上から見た昇降機と格納庫
装備
C4Iシステム
護衛艦としてはじめて、護衛隊群司令部を十分に収容できる規模の司令部施設(旗艦用司令部作戦室・FIC)を設置している。FICは第2甲板、CICの後部に隣接して設置されており、アメリカ海軍の航空母艦や強襲揚陸艦に設置されているTFCC (群司令部指揮所) と同様の機能を有している。ここには、海上自衛隊の基幹指揮回線であるMOFシステムの新型艦上端末であるMTAが設置されている。MTAは従来使用されてきたC2Tの能力向上版で、個艦の戦闘統制用のCDSと連接されている。また通信機能も増強されており、従来より使用されてきたSUPERBIRD B2に加えて、より高速・大容量のSUPERBIRD Dによる衛星通信を使用できるようになっているほか、必要に応じて、さらに大容量のKuバンド衛星通信を使用する用意もなされている。また、アメリカ軍との共同作戦を考慮し、アメリカ海軍の基幹指揮回線であるGCCS-Mも設置されている。これは、USC-42 Mini-DAMAを介して、FLTSATCOMなどアメリカ軍のUHF帯衛星通信を使用する。
同じ第2甲板の前方には多目的室が設置されている。ここはOAフロアや可動式の間仕切りを備え、必要に応じてレイアウト変更が可能であり、大規模災害時の自治体責任者を交えた災害対策本部や、海外派遣時の統合任務部隊司令部などに利用される。
CICには、OYQ-10 ACDSが設置され、個艦の戦闘統制に使用される。OYQ-10は、オペレーターの判断支援および操作支援のため、予想される戦術状況に対応して、IF-THENルールを用いて形式化されたデータベースに基くドクトリン管制を採用している。これにより、オペレーターの関与は必要最小限に抑えられ、意思決定の迅速化を図っている。また、OYQ-10は、NOYQ-1艦内統合ネットワークを介して、対空戦闘システムであるFCS-3、対潜戦闘システムであるOQQ-21、電子戦装置などと連接され、艦全体の戦闘を統括する。これらは、新戦闘指揮システムATECS (Advanced Technology Combat System) と総称されている。
航空システム
全通甲板構造による複数機同時発着能力、支援設備による高度な整備支援能力、大型格納庫による多数機収容能力、高度なC4Iシステムによる航空管制能力を備え、通常は、SH-60JまたはSH-60K哨戒ヘリコプターを3機搭載する。この定数は、前任者であるはるな型やしらね型と同じで、必要時には、これに加えてMCH-101掃海・輸送ヘリコプターを1機搭載することができる。
整備区画とエレベーターを含む格納庫部の全長は120m、幅は19m-20mであり[8]、60m×19mの格納庫のみでSH-60哨戒ヘリコプターであれば1個護衛隊群の定数に相当する8機、MCH-101であれば4機収容できる広さを持っている。また格納庫は防火シャッターにより前後2区画に仕切ることもできる。また、後部エレベータをはさんで格納庫の後方には整備区画が設けられ、艦内でメインローターを広げたまま整備を行うことができる。飛行甲板から格納庫をむすぶエレベータは、格納庫の前後に2基が装備されており、後方エレベータは幅13メートルで、SH-60がローターを広げた状態で積載できるため、飛行甲板から整備区画に直接移動させることができる。前方エレベータは幅10メートルで、やや小型となっている。また、ヘリコプターに搭載する対艦ミサイルや魚雷などを輸送する弾薬用のエレベータも前後2基装備する。飛行甲板には4機分のヘリスポットが装備されており、3機の同時運用が可能。舷側エレベータは採用していない。
大規模災害発生時には、第72航空隊、第73航空隊のUH-60J救難ヘリコプターを搭載し、洋上救援基地として利用する。
ヘリコプター洗浄用の清水を含む、全ての艦内用清水を作るための造水装置はヘリコプターを搭載しないこんごう型護衛艦(イージス艦)と同型のものを同数搭載する。また、熱源となる補助ボイラーもこんごう型護衛艦と同型のものを同数搭載する。
個艦戦闘システム
後部右舷寄りに16セルのMk 41 VLSが備わり、防空用のESSM(発展型シースパロー)艦対空ミサイル、対潜水艦用に07式垂直発射魚雷投射ロケット(新アスロック対潜ミサイル)が収容される。
従来のDDHである「はるな型」がシースパロー16発(うち発射機に即応弾8発)、アスロック16発(うち発射機に即応弾8発)を搭載していたのに対して、本型はアスロックの総数こそ減少しているものの、ESSMはMk 41 VLSに装填されたMk 25キャニスタ1セルにつき4発搭載可能なので、即応弾数と総数は増加しており、装填動作の不要なVLSによって即応性も向上している。艦内に1斉射分、16発のESSM予備弾を搭載するとされている。
対空戦闘システム
新開発の射撃指揮装置であるFCS-3とOYQ-10 ACDSを中核として、高度に自動化された対空戦闘システムを備えている。
FCS-3は、従来より試験艦「あすか」で運用試験を受けていたものの改良型で、Cバンドを使用する捜索レーダーと、Xバンドを使用する射撃指揮レーダーのフェーズド・アレイ・アンテナをそれぞれ4面ずつ 、アイランド前部に0度と270度を向いたもの、後部に90度と180度を向いたものを設置しており、目標捜索から追尾、そしてOYQ-10から指示を受けての攻撃までを担当する。[9]総合的な対空武器システムとなっており、最大探知距離200キロ以上、最大追尾目標数300程度とされる。砲を搭載しないことから、ESSM(発展型シースパロー)の射撃指揮にのみ用いられることとなる。
対空ミサイルのESSMは、従来使用されてきたシースパローIPDMSの発展型であり、より敏捷になっている。また、同時多目標対処を狙って中途航程に慣性誘導を導入したことにより飛翔コースが最適化され、近距離での機動性向上を狙って推力を増強した結果、射程も最大50kmに延長されている。射程の外縁部では機動性が低下するものの、限定的な艦隊防空[10]能力を有する。海上自衛隊の護衛艦で、ESSMを新造時から搭載するのはひゅうが型が初となる。
ESSMの射撃可能域よりも近距離の航空脅威に対処するため、飛行甲板前端と、船体後部左舷側に設けられたスポンソン上に高性能20mm機関砲(CIWS)を計2基搭載している。
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20mm高性能機関砲(Block1B)
対潜・対水上戦闘システム
対潜戦闘システムの中核となるのが、OQQ-21ソナー・システムで、これは、新開発の大型艦首装備ソナーと対潜情報処理装置、水中攻撃指揮装置を統合したものである。ソナーは試験艦あすかで試験されていたもので、長大なソナー・ドームの前部には従来と同様の円筒形ソナー・アレイを備え、後方の両側面にフランク・アレイを装備する。従来の機種に比べて、探知距離と浅海域での探知精度が向上している。このように自艦装備ソナーの性能が向上したこともあって、航空運用能力を確保するために戦術曳航ソナーは装備しない。
自艦装備の対潜火力としては、Mk41 VLSより発射するVLA(垂直発射式アスロック)対潜ミサイルと、舷側のHOS-303 3連装短魚雷発射管がある。搭載する16セルのMk41 VLSのうち、12セルがVLAに割り振られる。また、将来的には、新開発の07式垂直発射魚雷投射ロケット(新アスロック)の運用も予定されている。HOS-303 3連装短魚雷発射管は、従来より使用されてきた68式3連装短魚雷発射管の最新版で、新型の97式短魚雷の運用が可能となっている。
また、自艦の搭載機も含め、任務群が有する哨戒ヘリコプターを一括して統制することで、対潜戦闘を展開することも可能。搭載機のうち、SH-60KはAGM-114M ヘルファイアII空対艦ミサイルが装備でき、砲や対艦ミサイルを持たないひゅうが型における間接的な対水上火力となる[11]。
洋上でのテロ攻撃に対処するため、合計で7基のM2 12.7mm機銃を搭載する。近接防空用の高性能20mm機関砲(ファランクス)も、光学照準機能を持つブロック1Bと呼ばれるバージョンを採用したことで、小型・高速の水上脅威が接近してきた場合に対処できる。
戦争以外の軍事作戦
マルチハザード化とグローバル化を背景に、近年、世界的に戦争以外の軍事作戦(MOOTW)のニーズが増大しているが、本型は、これらの作戦においても非常に有効であると期待されている。特に自然災害の頻度が高い日本においては、災害派遣における人道支援任務への応用が期待されている。
全通甲板などの設備により、航空機の運用性が向上していることから、艦載用に設計されていない陸上自衛隊機や、消防防災ヘリコプターなど民間機の離着艦も可能と見られている[12]。この性能を生かして、大規模災害時の海上基地としての機能も盛り込まれており、海上自衛隊が保有するMCH-101掃海・輸送ヘリコプターを搭載しての救援物資輸送や、救難飛行隊のUH-60Jによる傷病者の収容、消防や警察、海上保安庁のヘリコプターに対する管制・補給支援が計画されている。また、自治体関係者による合同対策本部を収容できる設備が用意されているほか、集中治療室を含む医療設備を持つ。また、弾薬用エレベータはストレッチャーと付添員を乗せられる大きさとなっているほか、飛行甲板から初療室までの経路はバリアフリー化されており、傷病者をストレッチャーに載せたままで迅速に移送できるよう配慮されている。[13]
2009年9月5日には、横浜市が横浜港の大さん橋ふ頭に停泊したひゅうがを拠点に5機関合同防災訓練を実施、陸上自衛隊(UH-1)、海上保安庁(AS332)、神奈川県警察(AS365)、横浜市安全管理局(当時)(AS365)によるヘリコプター発着艦訓練、海上自衛隊のSH-60Kによる負傷者搬送、収容訓練が行われた。
同型艦
2隻のはるな型を代替する為、「ひゅうが」と「いせ」の2隻のひゅうが型が建造されている。艦番号は当初、建造番号2405号艦(ひゅうが)にDDH-145が、建造番号2406号艦(いせ)にDDH-146が与えられていたが、後にそれぞれ、建造番号2319号艦と艦番号DDH-181、 建造番号2320号艦と艦番号DDH-182に変更されている。はるな型としらね型の艦番号は141から144であったので、ひゅうが型の艦番号は従来型DDHと連続していないことになる。
2番艦「いせ」には大型の燃料タンクを生かした他の護衛艦に対する洋上補給装置や、ヘリ運用能力向上のため格納庫内に起倒式のキャットウォークを追加装備するとしている。 なお、ひゅうが型がはるな型を代替する数年後には、しらね型2隻の退役が見込まれており、これを代替する19500トン型の1番艦22DDHの建造予算が承認済みで、2番艦24DDHの建造も計画中である。
艦名 | 艦番号 | 起工 | 進水 | 竣工 | 所属 | 建造 |
---|---|---|---|---|---|---|
ひゅうが | DDH-181 | 2006年 (平成18年) 5月30日 |
2007年 (平成19年) 8月23日 |
2009年 (平成21年) 3月18日 |
第1護衛隊群 第1護衛隊 |
アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド 横浜工場 |
いせ | DDH-182 | 2008年 (平成20年) 5月30日 |
2009年 (平成21年) 8月21日 |
2011年 (平成23年) 3月予定 |
アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド 横浜工場 |
脚注
- ^ 海上自衛隊の命名基準における地方名の範疇として旧国名が採用された。既存の自衛隊艦船にも輸送艦「さつま」「おおすみ」、補給艦「さがみ」、「おうみ」など旧国名を冠したものがあるが、これらの艦名はいずれも半島、湖、湾、川といった地名、名所旧跡名に由来している。「おうみ」は近江国そのものではなく琵琶湖の古名から取られたものであるため、直接的に旧国名が用いられた例はひゅうが型が最初となる。
- ^ 平成21年4月11日(土)に、海上自衛隊横須賀地方総監部で行われた一般公開で配布された海上自衛隊のパンフレットには13,500tと記載されている。
- ^ IHIがDDH-181進水記念に配布した絵葉書には乗員約490名、就役記念に配布した絵葉書には乗員数約510名と記載されている一方、海上自衛隊のサイトと朝雲新聞の2009年3月26日付記事には、乗員約340名と記載されている。また、第1護衛隊群のサイトと、平成21年4月11日(土)に海上自衛隊横須賀地方総監部で行われた一般公開で配布された海上自衛隊のパンフレットには乗員約360名と記載されている。どれも航空要員や司令部要員を含めた物であるかは明記されていない。
- ^ 平成21年4月11日(土)に、海上自衛隊横須賀地方総監部で行われた一般公開で配布された海上自衛隊のパンフレットには、 搭載ヘリコプターとして、SH-60K、SH-60J、MH-53E、MCH-101の4種類が記載されている。
- ^ 学研社歴史群像シリーズ『最新海洋兵器図鑑』がイメージ図ダミー説に言及
- ^ 旧海軍の空母と比較すると「龍驤」と同等
- ^ 「世界の艦船」2005年11月号
- ^ 世界の艦船2007年11月号83ページ
- ^ コストダウンのため、1番艦「ひゅうが」のレーダーは「あすか」に装備されていたものの台枠3基を流用したが、アクティブアレイの素子は全て新造品に交換された。
- ^ この種の限定的艦隊防空は、僚艦防空 (Loacal Area Defence)とも呼ばれる。同様にESSMとイージスシステムを組み合わせて搭載しているノルウェーのフリチョフ・ナンセン級フリゲートについても同様の言及がされている。
- ^ アメリカ海軍ではシースパローによる艦艇の攻撃実験に成功しているが、日本のFCS-2ではモノパルス誘導のRIM-7M対応化の際に対艦攻撃能力は持たない。FCS-3については不明。
- ^ 野木恵一 (2008)による。
- ^ 岡部いさく「「ひゅうが」はSTOVL空母になれるのか?」『航空ファン』、文林堂、2009年9月、67-71頁。
参考文献
- 野木恵一「空母『ひゅうが』の登場と海自艦隊航空」『世界の艦船』2008年10月号、海人社、2008年
- 編集部「最新鋭DDH『ひゅうが』のすべて」『世界の艦船』2009年8月号、海人社、2009年
- 東郷行紀「『ひゅうが』に見る最新護衛艦のデジタル化」『世界の艦船』2009年8月号、海人社、2009年
関連項目
- 海上自衛隊艦艇一覧
- はるな型護衛艦 / しらね型護衛艦 / 19500トン型護衛艦
- 海上自衛隊の航空母艦建造構想
- 軽空母 / ヘリ空母 / 対潜空母
- 航空戦艦 / 戦艦「伊勢」 / 戦艦「日向」
- 揚陸指揮艦 / ブルー・リッジ級揚陸指揮艦
- モスクワ級ヘリコプター巡洋艦
- 出光丸(竣工時には世界最大であった石油タンカー)
- ちきゅう - 日本の公的機関が所有する日本最大の船舶(海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船)
- しきしま - 海上保安庁の所有する世界最大の巡視船(ヘリ搭載型大型巡視船(PLH))