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「スベンスマルク効果」の版間の差分

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1998年に[[ジュネーヴ]]の[[CERN]]素粒子物理学研究所の[[ジャスパー・カービー]]([[:en:Jasper Kirkby|Jasper Kirkby]])により[[大気化学]]における宇宙線の役割を調査するためにCLOUD<ref>[http://cloud.web.cern.ch/cloud/ CLOUD Proposal Documents]</ref>と呼ばれる実験が提案され、本格的なデータが得られるのは2010年くらいとされていた。また小規模なSKYと呼ばれる実験が[[ヘンリク・スベンスマルク]]([[:en:Henrik Svensmark|Henrik Svensmark]])により行われた<ref>{{cite journal |url=http://www.spacecenter.dk/research/sun-climate/Scientific%20work%20and%20publications/svensmark_2007cosmoClimatology.pdf |author=H. Svensmark |title=Cosmoclimatology: a new theory emerges |journal=Astronomy & Geophysics |volume=48 |issue=1 |pages=1.18 |date=2007 |doi=10.1111/j.1468-4004.2007.48118.x }}</ref>。2005年の実験では、空気中において宇宙線によって放出された[[電子]]が雲の核形成の触媒として作用することが明らかとなった。このような実験により、スベンスマルクらは宇宙線が雲の形成に影響を与えるかもしれないとの仮説を提案した。しかし2011年、CERNのCLOUD実験でも、実際に雲を形成できるような大きさの水滴の生成は確認できていない<ref name="CERN2011">[http://dx.doi.org/10.1038/nature10343 Jasper Kirkby et al., Role of sulphuric acid, ammonia and galactic cosmic rays in atmospheric aerosol nucleation, Nature 476, 429–433, 25 August 2011]</ref>。提唱者らによる2012年時点の論文でも、仮説に留まっている<ref>[http://atmos-chem-phys-discuss.net/12/3595/2012/acpd-12-3595-2012.pdf J. Svensmark, M. B. Enghoff, and H. Svensmarkm Effects of cosmic ray decreases on cloud microphysics, Atmos. Chem. Phys. Discuss., 12, 3595–3617, 2012]</ref>。
1998年に[[ジュネーヴ]]の[[CERN]]素粒子物理学研究所の[[ジャスパー・カービー]]([[:en:Jasper Kirkby|Jasper Kirkby]])により[[大気化学]]における宇宙線の役割を調査するためにCLOUD<ref>[http://cloud.web.cern.ch/cloud/ CLOUD Proposal Documents]</ref>と呼ばれる実験が提案され、本格的なデータが得られるのは2010年くらいとされていた。また小規模なSKYと呼ばれる実験が[[ヘンリク・スベンスマルク]]([[:en:Henrik Svensmark|Henrik Svensmark]])により行われた<ref>{{cite journal |url=http://www.spacecenter.dk/research/sun-climate/Scientific%20work%20and%20publications/svensmark_2007cosmoClimatology.pdf |author=H. Svensmark |title=Cosmoclimatology: a new theory emerges |journal=Astronomy & Geophysics |volume=48 |issue=1 |pages=1.18 |date=2007 |doi=10.1111/j.1468-4004.2007.48118.x }}</ref>。2005年の実験では、空気中において宇宙線によって放出された[[電子]]が雲の核形成の触媒として作用することが明らかとなった。このような実験により、スベンスマルクらは宇宙線が雲の形成に影響を与えるかもしれないとの仮説を提案した。しかし2011年、CERNのCLOUD実験でも、実際に雲を形成できるような大きさの水滴の生成は確認できていない<ref name="CERN2011">[http://dx.doi.org/10.1038/nature10343 Jasper Kirkby et al., Role of sulphuric acid, ammonia and galactic cosmic rays in atmospheric aerosol nucleation, Nature 476, 429–433, 25 August 2011]</ref>。提唱者らによる2012年時点の論文でも、仮説に留まっている<ref>[http://atmos-chem-phys-discuss.net/12/3595/2012/acpd-12-3595-2012.pdf J. Svensmark, M. B. Enghoff, and H. Svensmarkm Effects of cosmic ray decreases on cloud microphysics, Atmos. Chem. Phys. Discuss., 12, 3595–3617, 2012]</ref>。


== 理解の現状 ==
== 批判 ==
スベンスマルクらの提唱する機構が、実際に気候に影響しているという確証は見つかっていない<ref name="Sloan2011">[http://dx.doi.org/10.1016/j.jastp.2011.07.013 T. Sloan, A.W. Wolfendale, The contribution of cosmic rays to global warming, Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics, Volume 73, Issue 16, October 2011, Pages 2352–2355]</ref>。また複数の科学的報告<ref name="Erlykin"/>によって、宇宙線が実際の雲量や近年の[[地球温暖化]]に大きく影響を与えているとの説は否定されている。
スベンスマルクらの提唱する機構が、実際に気候に影響しているという確証は見つかっていない<ref name="Sloan2011">[http://dx.doi.org/10.1016/j.jastp.2011.07.013 T. Sloan, A.W. Wolfendale, The contribution of cosmic rays to global warming, Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics, Volume 73, Issue 16, October 2011, Pages 2352–2355]</ref>。また複数の科学的報告<ref name="Erlykin"/>によって、宇宙線が実際の雲量や近年の[[地球温暖化]]に大きく影響を与えているとの説は否定されている。



2012年6月24日 (日) 08:13時点における版

スベンスマルク効果(スベンスマルクこうか)とは、宇宙空間から飛来する銀河宇宙線(GCR)が地球のの形成を誘起しているという仮説である[1][2]。原理的には霧箱の仕組みを地球大気に当てはめたものであり、大気に入射した高エネルギー宇宙線は空気シャワー現象によりミュー粒子などの多量の二次粒子を生じさせ、その二次粒子を核として雲の形成が促進される効果を指す。この説は完全に否定されてはいないものの、気候変動への影響については仮説に留まっている[3]。また影響があったとしても、その影響量は無視できる程度だという反論もある[4]

概要

太陽磁場は宇宙線が直接地球に降り注がれる量を減らす役割を果たしている。そのため、太陽活動が活発になると太陽磁場も増加し、地球に降り注がれる宇宙線の量が減少する。スベンスマルクらは1997年、宇宙線の減少によって地球の雲の量が減少し、アルベド(反射率)が減少した分だけ気候が暖かくなった可能性を提唱した[1]

1998年にジュネーヴCERN素粒子物理学研究所のジャスパー・カービーJasper Kirkby)により大気化学における宇宙線の役割を調査するためにCLOUD[5]と呼ばれる実験が提案され、本格的なデータが得られるのは2010年くらいとされていた。また小規模なSKYと呼ばれる実験がヘンリク・スベンスマルクHenrik Svensmark)により行われた[6]。2005年の実験では、空気中において宇宙線によって放出された電子が雲の核形成の触媒として作用することが明らかとなった。このような実験により、スベンスマルクらは宇宙線が雲の形成に影響を与えるかもしれないとの仮説を提案した。しかし2011年、CERNのCLOUD実験でも、実際に雲を形成できるような大きさの水滴の生成は確認できていない[7]。提唱者らによる2012年時点の論文でも、仮説に留まっている[8]

批判 

スベンスマルクらの提唱する機構が、実際に気候に影響しているという確証は見つかっていない[9]。また複数の科学的報告[4]によって、宇宙線が実際の雲量や近年の地球温暖化に大きく影響を与えているとの説は否定されている。

スベンスマルクらの説はIPCCにおいても評価対象となったが、2001年の第三次評価報告書(WG1 第6章)、および2007年の第四次評価報告書(WG1 第2章)でその影響は不明確であると指摘され、採用されていない[10][11]。この評価報告書は、世界130カ国からの2千人以上の専門家の科学的・技術的・社会経済的な知見を集約し[12][13]、かつ参加195カ国の政府代表から成るパネルによって認められた報告書である[13]。また現在観測されている温暖化は、確率90%以上で人為的な要因が主因であると評価されている[14]

2008年4月、J.E.Kristjanssonらは雲量の観測結果に宇宙線との関連性が見られないとの調査結果を発表し[15]、「これが重要だという証拠は何もない」と指摘している[15][16]。2009年、CalogovicらはForbush Decreaseと呼ばれる宇宙線の変化現象に対する雲量の応答を調べた結果「どのような緯度・高度においても、対応する雲量の変化は見られない」と報告している[17]。2009年、Pierceらは宇宙線による影響量は観測されている温暖化を引き起こすには2桁足りないと指摘している[18]。 2011年、複数の検証結果に基づいたレビューにより、実際の雲量への宇宙線の影響は確認できず、地球規模での気候への影響はあっても無視できる程度である[4]と評価されている。またSloanらは2011年、実際の気候との関係は何も確認できないと指摘した上で、仮に関係があったとしても1900年以降に観測されている気温上昇の8%未満の影響しかないと見積もっている[9]

脚注

  1. ^ a b H. Svensmark et. al. (1997). “Variation of cosmic ray flux and global cloud coverage—a missing link in solar-climate relationships”. Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics 59 (11): 1225. doi:10.1016/S1364-6826(97)00001-1. http://www.dsri.dk/~hsv/9700001.pdf. 
  2. ^ H. Svensmark (1998). “Influence of Cosmic Rays on Earth's Climate”. Physical Review Letters 81 (22): 5027. doi:10.1103/PhysRevLett.81.5027. http://www.dsri.dk/~hsv/prlresup2.pdf. 
  3. ^ Effects of cosmic ray decreases on cloud microphysics, J. Svensmark, M. B. Enghoff, and H. Svensmark, Atmos. Chem. Phys. Discuss., 12, 3595–3617, 2012
  4. ^ a b c A.D. Erlykin, A.W. Wolfendale, Cosmic ray effects on cloud cover and their relevance to climate change, Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics, Volume 73, Issue 13, August 2011, Pages 1681-1686
  5. ^ CLOUD Proposal Documents
  6. ^ H. Svensmark (2007). “Cosmoclimatology: a new theory emerges”. Astronomy & Geophysics 48 (1): 1.18. doi:10.1111/j.1468-4004.2007.48118.x. http://www.spacecenter.dk/research/sun-climate/Scientific%20work%20and%20publications/svensmark_2007cosmoClimatology.pdf. 
  7. ^ Jasper Kirkby et al., Role of sulphuric acid, ammonia and galactic cosmic rays in atmospheric aerosol nucleation, Nature 476, 429–433, 25 August 2011
  8. ^ J. Svensmark, M. B. Enghoff, and H. Svensmarkm Effects of cosmic ray decreases on cloud microphysics, Atmos. Chem. Phys. Discuss., 12, 3595–3617, 2012
  9. ^ a b T. Sloan, A.W. Wolfendale, The contribution of cosmic rays to global warming, Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics, Volume 73, Issue 16, October 2011, Pages 2352–2355
  10. ^ 6.11.2.2 Cosmic rays and clouds (IPCC 2001 TAR)
  11. ^ 2.7.1.3 Indirect Effects of Solar Variability (IPCC 2007 AR4)
  12. ^ 「ココが知りたい温暖化」のIPCCに関するQ&A
  13. ^ a b IPCC の役割とIPCC の評価プロセスの主要な要素、2010年2月4日
  14. ^ IPCC Fourth Assessment Report: Climate Change 2007 SPM, Understanding and Attributing Climate Change (注:very likelyは、確率90%以上を表す。IPCC第4次評価報告書#使われている表記を参照のこと)
  15. ^ a b Cosmic rays, cloud condensation nuclei and clouds – a reassessment using MODIS data, J. E. Kristjánsson, C. W. Stjern, F. Stordal, A. M. Fjæraa, G. Myhre, and K. Jónasson, Atmos. Chem. Phys., 8, 7373-7387, 2008
  16. ^ BBC、2008年4月18日 08:48(解説記事;原論文はKristjanssonnらのものを参照)
  17. ^ Calogovic, J., C. Albert, F. Arnold, J. Beer, L. Desorgher, and E. O. Flueckiger (2010), Sudden cosmic ray decreases: No change of global cloud cover, Geophys. Res. Lett., 37, L03802
  18. ^ Pierce, J. R., and P. J. Adams (2009), Can cosmic rays affect cloud condensation nuclei by altering new particle formation rates?, Geophys. Res. Lett., 36, L09820, doi:10.1029/2009GL037946.

関連記事

参考文献

  • Henrik Svensmark and Nigel Calder, "The Chilling Stars: A New Theory of Climate Change", Totem Books, 2007 (ISBN 1-840-46815-7)

外部リンク