コンテンツにスキップ

「スベンスマルク効果」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
理論と検証: 2012年6月30日 (土) 13:38 (UTC) にノートに示した事項を反映。
m編集の要約なし
39行目: 39行目:
[[Category:地球温暖化]]
[[Category:地球温暖化]]
[[Category:気候変動の原因]]
[[Category:気候変動の原因]]

[[en:Henrik_Svensmark#Cosmoclimatology_theory_of_climate_change]]

2012年12月17日 (月) 13:09時点における版

スベンスマルク効果(スベンスマルクこうか)とは、宇宙空間から飛来する銀河宇宙線が地球のの形成を誘起しているという仮説である[1][2][3]。気候変動への影響についても仮説に留まっており[4]、主要な科学的報告において採用されておらず[5]、影響があったとしても、その影響量は最大でも観測されている気温上昇量の数パーセント程度だとみられている[6][7]

理論と検証

太陽磁場は宇宙線が直接地球に降り注がれる量を減らす役割を果たしている。そのため、太陽活動が活発になると太陽磁場も増加し、地球に降り注がれる宇宙線の量が減少する。スベンスマルクらは1997年、宇宙線の減少によって地球の雲の量が減少し、アルベド(反射率)が減少した分だけ気候が暖かくなった可能性を提唱した[1]

1998年にジュネーヴCERN素粒子物理学研究所のジャスパー・カービー英語版により大気化学における宇宙線の役割を調査するためにCLOUD[8]と呼ばれる実験が提案され、本格的なデータが得られるのは2010年くらいとされていた。また小規模なSKYと呼ばれる実験がヘンリク・スベンスマルク英語版により行われた[9]。2005年の実験では、空気中において宇宙線によって放出された電子が雲の核形成の触媒として作用することが明らかとなった。このような実験により、スベンスマルクらは宇宙線が雲の形成に影響を与えるかもしれないとの仮説を提案した。しかし2011年、CERNのCLOUD実験でも、実際に雲を形成できるような大きさの水滴の生成は確認できていない[10]。提唱者らによる2012年時点の論文でも、仮説に留まっている[4]

なお、ウィルソンの霧箱は数百%の過飽和状態であるが、現実大気の過飽和は数%であり、霧箱のような事は起こらないとしている[1]

温暖化への影響

スベンスマルクらの提唱する機構が、実際に気候に影響しているという確証は見つかっていない[7]。また複数の科学的報告[6]によって、宇宙線が実際の雲量や近年の地球温暖化に大きく影響を与えているとの説は否定されている。

スベンスマルクらの説は気候変動に関する政府間パネル (IPCC) においても評価対象となったが、2001年の第三次評価報告書(ワーキンググループ1、第6章)[11]および2007年の第4次評価報告書(ワーキンググループ1、第2章)[5]でその影響は不明確であると指摘され、採用されていない。この評価報告書は、世界130か国からの2千人以上の専門家の科学的・技術的・社会経済的な知見を集約し[12][13]、かつ参加195か国の政府代表から成るパネルによって認められた報告書である[13]。また現在観測されている温暖化は、確率90%以上で人為的な要因が主因であると評価されている[14]

2008年4月、ヨーン・エギル・クリスチャンセン (Jon Egill Kristjansson) らは雲量の観測結果に宇宙線との関連性が見られないとの調査結果を発表し[15]、「これが重要だという証拠は何もない」と指摘している[15][16]。2009年、カロゴビッチ (Calogovic) らはフォーブッシュ減少英語版と呼ばれる宇宙線の変化現象に対する雲量の応答を調べた結果「どのような緯度・高度においても、対応する雲量の変化は見られない」と報告している[17]。2009年、ピアス (Pierce) らは宇宙線による影響量は観測されている温暖化を引き起こすには2桁足りないと指摘している[18]。 2011年、複数の検証結果に基づいたレビューにより、実際の雲量への宇宙線の影響は確認できず、地球規模での気候への影響はあっても無視できる程度である[6]と評価されている。またスローン (Sloan) らは2011年、実際の気候との関係は何も確認できないと指摘した上で、仮に関係があったとしても1900年以降に観測されている気温上昇の8%未満の影響しかないと見積もっている[7]

脚注

  1. ^ a b c Svensmark, Henrik; Friis-Christensen, Eigil (1997). “Variation of cosmic ray flux and global cloud coverage—a missing link in solar-climate relationships”. Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics 59 (11): 1225–1232. doi:10.1016/S1364-6826(97)00001-1. http://kbar.sitecore.dtu.dk/upload/institutter/space/forskning/05_afdelinger/sun-climate/full_text_publications/svensmark_96_variations%20of.pdf. 
  2. ^ Svensmark, Henrik (1998). “Influence of Cosmic Rays on Earth's Climate”. Physical Review Letters 81 (22): 5027–5030. doi:10.1103/PhysRevLett.81.5027. 
  3. ^ ヘンリク・スベンスマルク、ナイジェル・コールター『“不機嫌な”太陽―気候変動のもうひとつのシナリオ』桜井邦朋(監修)、青山洋(訳)、恒星社厚生閣、2010年。ISBN 978-4769912132 
  4. ^ a b Svensmark, J.; Enghoff, M. B.; Svensmark, H. (2012). “Effects of cosmic ray decreases on cloud microphysics”. Atmospheric Chemistry and Physics Discussions 12: 3595–3617. http://atmos-chem-phys-discuss.net/12/3595/2012/acpd-12-3595-2012.pdf. 
  5. ^ a b Working Group I: The Physical Science Basis (2007年). “2.7.1.3 Indirect Effects of Solar Variability”. IPCC Fourth Assessment Report: Climate Change 2007. Intergovernmental Panel on Climate Change. 2012年6月28日閲覧。
  6. ^ a b c Erlykin, A. D.; Wolfendale, A. W. (2011). “Cosmic ray effects on cloud cover and their relevance to climate change”. Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics 73 (13): 1681–1686. doi:10.1016/j.jastp.2011.03.001. 
  7. ^ a b c Sloan, T.; Wolfendale, A. W. (2011). “The contribution of cosmic rays to global warming”. Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics 73 (16): 2352–2355. doi:10.1016/j.jastp.2011.07.013. 
  8. ^ Cosmics Leaving OUtdoor Droplets (CLOUD)”. European Organization for Nuclear Research (CERN). 2012年6月27日閲覧。
  9. ^ Svensmark, Henrik (2007). “Cosmoclimatology: a new theory emerges”. Astronomy & Geophysics 48 (1): 1.18–1.24. doi:10.1111/j.1468-4004.2007.48118.x. 
  10. ^ Kirkby, Jasper et al. (63 authors) (2011). “Role of sulphuric acid, ammonia and galactic cosmic rays in atmospheric aerosol nucleation”. Nature 476: 429–433. エラー: 不正なDOI指定です. 
  11. ^ Working Group I: The Scientific Basis (2003年). “6.11.2.2 Cosmic rays and clouds”. IPCC Third Assessment Report - Climate Change 2001. Intergovernmental Panel on Climate Change. 2012年6月28日閲覧。
  12. ^ 高橋潔. “IPCC報告書とは?”. 「ココが知りたい温暖化」のIPCCに関するQ&A. 国立環境研究所 地球環境研究センター. 2012年6月28日閲覧。
  13. ^ a b IPCCの役割とIPCCの評価プロセスの主要な要素” (PDF). 環境省 (2010年2月4日). 2012年6月28日閲覧。
  14. ^ Working Group I: The Physical Science Basis (2007年). “Understanding and Attributing Climate Change”. IPCC Fourth Assessment Report: Climate Change 2007. Intergovernmental Panel on Climate Change. 2012年6月28日閲覧。(注:very likelyは、確率90%以上を表す。IPCC第4次評価報告書#使われている表記を参照のこと)
  15. ^ a b Kristjánsson, J. E.; Stjern, C. W.; Stordal, F.; Fjæraa, A. M.; Myhre, G.; Jónasson, K. (2008). “Cosmic rays, cloud condensation nuclei and clouds – a reassessment using MODIS data”. Atmospheric Chemistry and Physics 8: 7373–7387. doi:10.5194/acp-8-7373-2008. 
  16. ^ Black, Richard (2008年4月18日). “More doubt on cosmic climate link”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7352667.stm 2012年6月28日閲覧。 (解説記事:原論文はクリスチャンセンらのものを参照)
  17. ^ Calogovic, J.; Albert, C.; Arnold, F.; Beer, J.; Desorgher, L.; Flueckiger, E. O. (2010). “Sudden cosmic ray decreases: No change of global cloud cover”. Geophysical Research Letters 37: L03802. doi:10.1029/2009GL041327. 
  18. ^ Pierce, J. R.; Adams, P. J. (2009). “Can cosmic rays affect cloud condensation nuclei by altering new particle formation rates?”. Geophysical Research Letters 37: L09820. doi:10.1029/2009GL037946. http://www.seas.harvard.edu/climate/eli/Courses/global-change-debates/Sources/03-Cosmic-rays/more/Pierce-Adams-2009-GRL.pdf. 

関連項目

外部リンク