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闇に囁くもの

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闇に囁くもの』(やみにささやくもの The Whisperer in Darkness)とは、アメリカ合衆国小説家ハワード・フィリップ・ラヴクラフトの小説である。1930年2月から9月に執筆され、1931年8月にパルプ雑誌『ウィアード・テイルズ』に発表された。

クトゥルフ神話の一つとして位置づけられ、後発作品に登場する地球外生命体ミ=ゴが登場する。ラヴクラフトの他の作品と違い神性や呪文、呪われた血筋などが直接登場しないためファンタジー作品よりもホラー作品SF作品と見做される場合が多い。

あらすじ

マサチューセッツ州にあるミスカトニック大学文学部の「私」ウィルマース教授(Albert N. Wilmarth)は、バーモント州の奥深くに怪物の伝説があることに興味を持ち、その伝説を収集していたが、バーモント州で洪水があったさい、川に浮かんでいた奇妙な物体に関して、当地の年寄りを中心に住民が伝説の怪物と結びつけていることに関しては批判的であった。そんな「私」のもとにバーモント州に住むエイクリー(Henry Wentworth Akeley)なる民俗学者から手紙が届く。それによれば、エイクリーが先祖代々住んでいる土地は、太古、宇宙からやってきた怪物が拠点としている場所であり、エイクリーはその証拠として、彼らの集会の様子の録音などをとっているとしてそれらを送ってくる。しかし、エイクリーは何者かに狙われていた。「私」とエイクリーはこのことに関して意見交換の文通を始めるが、そのうち、手紙や電報、郵送した証拠品などが、つかないこと、偽の電報が届くことが再三あることが分かってくる。そのうちにエイクリーの身はますます危機にさらされるようになる。手紙の調子も恐怖とおびえが満ちだし、「私」にもこの件から身を引いたほうがよいという忠告も混じってくる。しかしそんなある日、エイクリーは怪物たちと和解したという晴れやかな手紙を送ってくる。のみならずその手紙には「私」を家に招待したいとの旨が書かれている。今まで送った証拠品も忘れず持ってきて欲しいとも。手紙が突然肉筆ではなくタイプ打ちに変わっていたことからも、疑いの混じる思いで「私」は、バーモント州の山奥深いエイクリー宅に赴く。当地の駅ではノイスなる妙になれなれしい男が出迎え、エイクリー宅まで運んでくれる。そこで会ったエイクリーは病気のため毛布をまとってソファーに座っていた。エイクリーは異星生物の力で脳を摘出し、宇宙旅行に同行することができるといい、「私」をも誘う。しかしその日の深夜、泊まったエイクリー邸で「私」が、エイクリーの座っていたソファーに見たものは、毛布とエイクリーそっくりの頭と手であった。

登場人物

  • アルバート・N・ウィルマース - ミスカトニック大学の教授。
  • ヘンリー・ウェントワース・エイクリー - 後述
  • ジョージ・グッドナイフ・エイクリー (George Goodenough Akeley) - エイクリーの息子。サンディエゴ在住で1971年に死去している。
  • ノイス (Noyes) - 謎の人物。

ヘンリー・ウェントワース・エイクリー

バーモント州在住の民俗学者。バーモント大学に在籍し、数学、天文学、生物学、人類民俗学の研究で活躍した。

1901年に妻は、息子ジョージが生まれた後に死んでしまう。エイクリーは、大学を引退した後、1721年に先祖がアメリカに初めて移住した地元に戻った。この地元でエイクリー家は、名士として知られていた。彼は、2階建ての農家に住み、地元の奇妙な伝承を研究し始めた。やがて地元の洪水で見つかった物体に興味を持ち、これに関する手紙をウィルマースに送って親交を結び、文通を開始した。それ以降、バーモントの山岳地帯で出没する謎の怪生物「ユゴスよりのもの」を調査し始める。

  • 1927年11月 - 地元の洪水で発見された物体を「ユゴスよりのもの」の死骸と考えるようになる。
  • 1928年5月 - 地元新聞や彼の見解をウィルマースに手紙で送る。
  • 1928年6月 - 「ユゴスよりのもの」の声を録音用の蝋管で収録する。
  • 1928年7月 - マウント・ヒル山で磨滅しかかった象形文字の刻まれた黒い石を発見し、ウィルマースに郵送する。しかしウィルマースが受け取る前に輸送中に紛失する。
  • 1928年8月 - 身の危険を感じ、護身用に犬を飼う。この犬も何者かによって殺される。
  • 1928年9月 - 「ユゴスよりのもの」を敵視し、調査して来たのは、間違いだった。何の問題ないという内容の手紙が送られる。
  • 同年9月12日 - ウィルマースを招待する手紙が届く。
  • 同年9月13日 - ウィルマースがエイクリーを訪ねたが見つからず行方不明になる。

解説

1928年にラヴクラフトは、アーサー・グッドナイフ (Arthur Goodenough) とバーモント州を訪れた。この時、バート・G・エイクリー (Bert G. Akley) という農家と出会ったと言われている。ロバート・プライスは、エイクリーに変装した人物がニャルラトホテプではないかと推察し、その根拠に「ユゴスよりのもの」たちの会話内容を指摘した。

リチャード・A・ルポフ (Richard A. Lupoff) は、『エリザベス・エイクリーの場合(Documents in the Case of Elizabeth Akeley 、1982年)』を執筆した。エリザベスは、エイクリーの孫娘である。他にウィルバー・エイクリー (Wilbur Akeley) 、フレッド・エイクリー (Fred Akeley) という人物が他のクトゥルフ神話作品で登場する。

クトゥルフ神話との関連

本作には、クトゥルフ神話に関連する語が登場する。以下にまず主要なものを列記する。

ヨグ=ソトトクトゥルフツァトゥグア 、ユゴス (Yog-Sothoth) 、ルルイエ、ニャルラトホテプ、アザトースハスター

次の以下は、解説を含めて挙げる。

  • イアン (Yian) - 「Yian-Ho」のこと。つまり「ユゴスよりのもの」ではない雪男のミ=ゴの別名。
  • レン - レン高原。
  • ハリ湖 (the Lake of Hali) - ハスターに関連する地名。
  • 黄の印 (the Yellow Sign) - ハスターに関連する用語。
  • ベツムーラ (Bethmoora) - ダンセイニの作品に登場するエルフの王国。
  • レムリアのカトゥロス (L’mur-Kathulos) - ロバート・E・ハワードの小説に登場するキャラクター。ラヴクラフトは、カトゥロスをクトゥルフ神話のキャラクターにしようかハワードと相談していた。
  • ブラン (Bran) - ハワードの作品に登場する「ブラン・マック・モーン (Bran Mak Morn) 」のこと。
  • マグナム・インノミナンダム (the Magnum Innominandum) - ラテン語の「名伏しがたきもの (the great not-to-be-named)」。

関連項目