円周率 (えんしゅうりつ)とは数学定数 の一つであり、π で表される。平面幾何学 における円の周の長さと直径の比として特徴づけることができる。
円周率 π は超越数 の一つとしても知られており、小数点以下 35 桁までの値は次のとおりである。
π = 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 …
円周率の計算の歴史については 円周率の歴史 を参照のこと。
直径 1 の円の円周は π
定義
円周率は、元々、平面幾何学で定義された数であるが、平面幾何学に留まらず数学 のいろいろな分野でその姿をあらわす。円周率 π の導出方法は多いが、どの定義によっても同じ値が得られるので、その時に応じて使いやすい定義を用いればよい。
円周による定義
平面幾何学 において円周 の長さを、その直径 で割って得られる値は円の大きさに関わらず一定の値を取る。この値を円周率 といい π と書く。
円周率の定義から、半径が 1 の円(単位円 )においては、その円周の長さは 2π である。特に、単位円を表す式 x 2 + y 2 = 1 を考えると、π の値は
π
:=
∫
−
1
1
1
+
(
y
′
)
2
d
x
=
∫
−
1
1
1
1
−
x
2
d
x
{\displaystyle \pi :=\int _{-1}^{1}{\sqrt {1+\left(y^{\prime }\right)^{2}}}dx=\int _{-1}^{1}{1 \over {\sqrt {1-x^{2}}}}dx}
として積分 によって求められる。
面積による定義
π を用いると半径 r の円の面積 は π r 2 と表されることから逆に円の面積を求め、その円の半径 の平方 r 2 で割って得られる値を π と定義してもよい。単位円の面積は丁度 π になることから、積分を使って
π
:=
2
∫
−
1
1
y
d
x
=
2
∫
−
1
1
1
−
x
2
d
x
{\displaystyle \pi :=2\int _{-1}^{1}ydx=2\int _{-1}^{1}{\sqrt {1-x^{2}}}dx}
と定めても同じことである。
指数関数・三角関数による定義
複素数 z を変数に取る指数関数 を
exp
(
z
)
:=
∑
k
=
0
∞
1
k
!
z
k
=
1
+
z
+
1
2
z
2
+
1
6
z
3
+
⋯
{\displaystyle \exp(z):=\sum _{k=0}^{\infty }{1 \over k!}z^{k}=1+z+{1 \over 2}z^{2}+{1 \over 6}z^{3}+\cdots }
で定義する。
exp(0) = 1 となるが、正 の実数 t に対し exp(it ) = 1 を満たす最小の t を 2π として π を定義できる。(i は虚数単位 )
この指数関数を用いて三角関数 を
cos
(
z
)
=
exp
(
i
z
)
+
exp
(
−
i
z
)
2
{\displaystyle \cos(z)={\exp(iz)+\exp(-iz) \over 2}}
sin
(
z
)
=
exp
(
i
z
)
−
exp
(
−
i
z
)
2
i
{\displaystyle \sin(z)={\exp(iz)-\exp(-iz) \over 2i}}
で定義すれば、正の実数 t に対して cos(t ) = 0
を満たす最小の t が π/2 であり、 sin(t ) = 0 を満たす最小の t が π である。
すなわち、三角関数の零点 によって円周率 π が定義される。
積分による定義
π
:=
∫
−
∞
∞
1
1
+
x
2
d
x
{\displaystyle \pi :=\int _{-\infty }^{\infty }{1 \over 1+x^{2}}dx}
によって定義されることもある。
逆正接関数 arctan(x ) が
arctan
(
x
)
=
∫
0
x
1
1
+
t
2
d
t
{\displaystyle \arctan(x)=\int _{0}^{x}{1 \over 1+t^{2}}dt}
と表されることから、この積分は三角関数による π の再定義の一種であるとも考えられるが、 この π の定義より先に三角関数が定義されている必要はなく、 arctan(x ) という関数さえも上のような積分によって定義することができる。
arctan(x ) のテイラー展開
arctan
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
(
−
1
)
n
2
n
+
1
x
2
n
+
1
=
x
−
1
3
x
3
+
1
5
x
5
−
1
7
x
7
+
1
9
x
9
−
⋯
{\displaystyle \arctan(x)=\sum _{n=0}^{\infty }{\frac {(-1)^{n}}{2n+1}}x^{2n+1}=x-{\frac {1}{3}}x^{3}+{\frac {1}{5}}x^{5}-{\frac {1}{7}}x^{7}+{\frac {1}{9}}x^{9}-\cdots }
に x = 1 を代入することによって
π
4
=
1
−
1
3
+
1
5
−
1
7
+
1
9
−
1
11
+
⋯
{\displaystyle {\frac {\pi }{4}}=1-{\frac {1}{3}}+{\frac {1}{5}}-{\frac {1}{7}}+{\frac {1}{9}}-{\frac {1}{11}}+\cdots }
(1400年 頃:マーヴァダ 、1671年 :グレゴリ 、1674年 :ライプニッツ )
という級数が得られる。この級数の収束は極めて遅いが、部分和をとれば π の近似値を計算することもできる。
arcsin(x )のテイラー展開
arcsin
(
x
)
=
x
+
∑
n
=
1
∞
1
⋅
3
…
(
2
n
−
1
)
2
⋅
4
…
(
2
n
)
x
2
n
+
1
2
n
+
1
=
∑
n
=
0
∞
(
2
n
)
!
4
n
(
n
!
)
2
(
2
n
+
1
)
x
2
n
+
1
for
|
x
|
<
1
{\displaystyle \arcsin(x)=x+\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {1\cdot 3\ldots (2n-1)}{2\cdot 4\ldots (2n)}}{\frac {x^{2n+1}}{2n+1}}=\sum _{n=0}^{\infty }{\frac {(2n)!}{4^{n}(n!)^{2}(2n+1)}}x^{2n+1}\quad {\mbox{ for }}|x|<1}
に x = 1/2 を代入することで
π
6
=
∑
n
=
0
∞
(
2
n
)
!
2
4
n
+
1
(
n
!
)
2
(
2
n
+
1
)
{\displaystyle {\frac {\pi }{6}}=\sum _{n=0}^{\infty }{\frac {(2n)!}{2^{4n+1}(n!)^{2}(2n+1)}}}
が得られる。この級数の収束は非常にはやいのでコンピューター で π の正確な値を求めるのに使うことができる。
歴史
円の周と直径の比がどんな円についても同じ値になり、その数が3より少し大きい程度だと言うことは古代エジプト やバビロニア 、インド 、ギリシャ の幾何学者たちにはすでに知られていた。また、古代インドやギリシャの数学者たちの間では半径 r の円の面積が π r 2 であることも知られていた。さらに、アルキメデス は半径 r の球の体積が
4
3
π
r
3
{\displaystyle {\frac {4}{3}}\pi r^{3}}
であることや、この球の表面積が
4
π
r
2
{\displaystyle 4\pi r^{2}}
(同じ半径の円の面積の4倍)になることを示した。
14世紀 インドの数学者・天文学者であるサンガマグラマのマドハヴァは次のような π の無限級数 表示を見いだしている:
π
4
=
1
−
1
3
+
1
5
−
1
7
+
⋯
+
(
−
1
)
n
1
2
n
+
1
⋯
{\displaystyle {\frac {\pi }{4}}=1-{\frac {1}{3}}+{\frac {1}{5}}-{\frac {1}{7}}+\cdots +(-1)^{n}{\frac {1}{2n+1}}\cdots }
これは逆正接関数 Arctan(x ) のテイラー展開 の x = 1での実現になっている。マドハヴァはまた、
π
=
12
(
1
−
1
3
⋅
3
+
1
5
⋅
3
2
−
1
7
⋅
3
3
+
⋯
)
{\displaystyle \pi ={\sqrt {12}}\left(1-{1 \over 3\cdot 3}+{1 \over 5\cdot 3^{2}}-{1 \over 7\cdot 3^{3}}+\cdots \right)}
を用いてπ の値を小数点以下 11 桁まで求めている。
18世紀 の数学者アブラハム・ドモワブル は、2n 回コインを投げたときに x 枚が表向きになる確率は、ある定数 C (彼はn が900の場合に数値計算によってその値を近似した)について
C
exp
(
−
(
x
−
n
)
2
n
)
{\displaystyle C\exp({\frac {-(x-n)^{2}}{n}})}
となっていることを見いだした。この正規分布 の概念は1738年に出版されたドモワブルの『巡り合わせの理論』に現れている。ドモワブルの友人のジェイムズ・スターリングは後になってこの定数 C が
1
2
π
{\displaystyle {\frac {1}{\sqrt {2\pi }}}}
であることを示している。
1751年にヨハン・ハンイリッヒ・ランベルトはx が有理数 ならば正接関数 の値 tan x が無理数 になることを示し、その系として π が無理数であることを導いた。さらに1882年にフェルディナント・フォン・リンデマンはπ が超越数 になっていることを示し、円積問題 が解けない(与えられた半径の円と同じ面積を持つ正方形を定規とコンパスで作図する ことはできない)ことを導いた。
ギリシア文字 π
アルキメデスの計算
π という文字は、周辺・地域・円周などを意味するギリシア語 π εριφε´ρεια の頭文字であり、オートレッド (1647年)やバーロー によって円周を表す記号として用いられ、ジョーンズ (1706年)やオイラー (1748年)などによって、円周率の記号として用いられた。
日本語においては、この数は円周率と呼ばれているが、国によっては必ずしもそのような名前があるわけではなく、単に π と呼ばれる。円周率を計算した人物の名前を取りアルキメデス数 、ルドルフ数 などと呼ばれることもある。
π の性質
超越性
π は無理数 であり、2 つの整数の比で表すことはできない。このことは1761年 にヨハン・ハインリッヒ・ランベルト が証明したが、厳密性に欠けた部分があった。その部分は1806年 にルジャンドル によって補われた。
さらに有理数 を係数に用いた有限次の代数方程式 の根とはならない。つまり、π は超越数 である。これは1882年 にフェルディナント・リンデマン によって証明された。この結果から、整数から四則演算 と冪根 をとる操作だけを有限回組み合わせた計算によって π の正確な値を求めることはできないことが分かる。
π が超越数であることは、古くから考えられてきた、定規とコンパスのみを有限回使って円と同じ面積を持つ正方形の作図を求める円積問題 が、不可能であることの証明でもある。
ランダム性
π の各桁に現れる数の並び方はランダム であることが期待されてはいるが、実際は、π が正規数 であるかどうかは分かっていない。例えば π の10進表示 において、各桁を順に取り出した
3, 1, 4, 1, 5, 9, 2, 6, 5, 3, 5,…
を数列 と見たときに、この数列には 0, …, 9 が均等に現れるのかどうか、すなわち、この数列が乱数列 になっているかどうかは分かっていない。それどころか 0,…,9 のどれもが無限に現れるのかどうかすら分かっていない。
現在 π は 1兆桁を超える桁数まで計算され 0,…,9 がランダムに現れているようには見えるが、この状態がこの先の桁でも続くかどうかは分からないのである。
ベイリーとクランドールの2000年 の発表によると、ベイリー=ボールウィン=プラウフの式を用いて2進表示 で様々な桁の計算をした結果では、各数値の出現率はカオス理論 に基づいていると推測できるようだ。
π に関する式
π を含む数式は非常に多い。ここではその一部を紹介する。数式によってはそれ自体が π の定義になり得るし、 π の近似値 の計算などにも使われてきた。
半径 r の円 の円周 の長さ: C = 2πr
半径 r の円の面積 : A = π r 2
半径 r の球の体積 : V = (4/3) π r 3
半径 r の球の表面積 : A = 4 π r 2
a と b を半軸 にもつ楕円 の面積: A = πab
180度の角は π ラジアン と等しい
2
1
⋅
2
3
⋅
4
3
⋅
4
5
⋅
6
5
⋅
6
7
⋅
8
7
⋅
8
9
⋯
=
π
2
{\displaystyle {\frac {2}{1}}\cdot {\frac {2}{3}}\cdot {\frac {4}{3}}\cdot {\frac {4}{5}}\cdot {\frac {6}{5}}\cdot {\frac {6}{7}}\cdot {\frac {8}{7}}\cdot {\frac {8}{9}}\cdots ={\frac {\pi }{2}}}
(ウォリス )
ζ
(
2
)
=
1
1
2
+
1
2
2
+
1
3
2
+
1
4
2
+
⋯
=
π
2
6
{\displaystyle \zeta (2)={\frac {1}{1^{2}}}+{\frac {1}{2^{2}}}+{\frac {1}{3^{2}}}+{\frac {1}{4^{2}}}+\cdots ={\frac {\pi ^{2}}{6}}}
(1735年 :オイラー )
ζ
(
4
)
=
1
1
4
+
1
2
4
+
1
3
4
+
1
4
4
+
⋯
=
π
4
90
{\displaystyle \zeta (4)={\frac {1}{1^{4}}}+{\frac {1}{2^{4}}}+{\frac {1}{3^{4}}}+{\frac {1}{4^{4}}}+\cdots ={\frac {\pi ^{4}}{90}}}
∫
−
∞
∞
e
−
x
2
d
x
=
π
{\displaystyle \int _{-\infty }^{\infty }e^{-x^{2}}dx={\sqrt {\pi }}}
(ガウス積分)
Γ
(
1
2
)
=
π
{\displaystyle \Gamma \left({1 \over 2}\right)={\sqrt {\pi }}}
n
!
∼
2
π
n
(
n
e
)
n
{\displaystyle n!\sim {\sqrt {2\pi n}}\left({\frac {n}{e}}\right)^{n}}
(スターリングの公式 )
∑
k
=
0
n
ϕ
(
k
)
∼
3
n
2
/
π
2
{\displaystyle \sum _{k=0}^{n}\phi (k)\sim 3n^{2}/\pi ^{2}}
e
π
i
+
1
=
0
{\displaystyle e^{\pi i}+1=0\;}
(オイラーの等式 )
4
π
{\displaystyle {\frac {4}{\pi }}}
の連分数 表示:
4
π
=
1
+
1
3
+
4
5
+
9
7
+
16
9
+
25
11
+
36
13
+
49
⋱
{\displaystyle {\frac {4}{\pi }}=1+{\cfrac {1}{3+{\cfrac {4}{5+{\cfrac {9}{7+{\cfrac {16}{9+{\cfrac {25}{11+{\cfrac {36}{13+{\cfrac {49}{\ddots }}}}}}}}}}}}}}}
自然数 から無作為に2つを取り出した時、その2つが互いに素 である確率は 6/π2 となる。
ロジスティック写像xi + 1 = 4xi (1 - xi ) によって帰納的に定まる数列xi を考える。0以上1以下のほとんどすべての数について、この数列の初期値 x0 としてその数を選んだ場合に
lim
n
→
∞
1
n
∑
i
=
1
n
x
i
=
2
π
{\displaystyle \lim _{n\to \infty }{\frac {1}{n}}\sum _{i=1}^{n}{\sqrt {x_{i}}}={\frac {2}{\pi }}}
がなりたっている。
Δ
x
Δ
p
≥
h
4
π
{\displaystyle \Delta x\Delta p\geq {\frac {h}{4\pi }}}
(ハイゼンベルクの不確定性関係 )
R
i
k
−
g
i
k
R
2
+
Λ
g
i
k
=
8
π
G
c
4
T
i
k
{\displaystyle R_{ik}-{g_{ik}R \over 2}+\Lambda g_{ik}={8\pi G \over c^{4}}T_{ik}}
(一般相対性理論 のアインシュタイン方程式 )
f
(
x
)
=
1
σ
2
π
e
−
(
x
−
μ
)
2
2
σ
2
{\displaystyle f(x)={1 \over \sigma {\sqrt {2\pi }}}\,e^{-{(x-\mu )^{2} \over 2\sigma ^{2}}}}
(正規分布 の確率密度関数 )
幅 1 の無限に広がる平行線の上に長さ 1/2 の針を落とすとき、その針が平行線の1つと共有点を持つ確率は 1/π となる(Buffonの針の問題)。
その他
円の内角は度数法で360度だが、πの358文字目は「3」、359文字目は「6」、360文字目は「0」である。
π の暗唱
π の桁を記憶術 に頼らずに暗記する方法が各種存在している。これらは π に関する遊びのようなもので、言語学 や音声学 に近く、数学の問題とは少し離れているかもしれない。
日本語では、語呂合わせ の要領で非常に長い桁を暗記するのも比較的簡単である。非常に有名なものとして以下のような物がある。
産医師異国に向かう
産後厄なく
産婦みやしろに
虫散々闇に鳴く
3.14159265
358979
3238462
643383279
(30桁)
英語圏では語呂合わせがうまくいかないため、英単語の文字数で覚える方法がいろいろと存在している。
Yes,
I
have
a
number.
3.
1
4
1
6
(小数点以下4桁までで四捨五入)
How
I
want
a
drink,
alcoholic
of
course,
after
the
heavy
lectures
involving
quantum
mechanics!
3.
1
4
1
5
9
2
6
5
3
5
8
9
7
9
(14桁)
これら覚え方には多くの方法があり、日本語では上記のものの改編で 90 桁までのものや、歌にあわせたもの、数値を文字に置き換えて 1,000 桁近く覚える方法など様々な方法がある。ギネスブック によれば、円周率暗唱の世界記録は4万桁以上(42,195 桁)であり、これは1995年 に日本人後藤裕之 が記録したものである。
2004年 9月25日 、原口證 が8時間45分かけて円周率54,000桁の暗唱 に成功し、従来の世界記録を更新した。しかしながら、実際はより多くの桁を覚えていたため、2005年 7月1日 ~7月2日 に再挑戦し、83,431桁までの暗唱に成功した。2006年 10月3日 午前9時~10月4日 午前1時30分(16時間30分)の挑戦で100,000桁の暗唱に成功した。ギネスブック に申請中。
3月14日 は円周率の日 および数学の日である。また7月22日 (22/7 は近似値)は円周率近似値の日とされている。
関連項目