電子親和力
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電子親和力(でんししんわりょく、英: electron affinity、EA)は、原子、分子(場合により、固体や表面も対象となる)に1つ電子を与えた時に放出または吸収されるエネルギー。放出の場合は正、吸収の場合は負と定義する。電子親和力が負であることは、陰イオンになり難いことを意味する。
X(g) + e− → X−(g) + energy
この時(左辺、右辺の原子、イオンはそれぞれ同じものとする。またエネルギーの符号は考えず、量のみのを比較する)、
- 電気的に中性な原子、分子の電子親和力=一価の負のイオンとなっている原子、分子のイオン化エネルギー(イオン化ポテンシャル、電離エネルギーとも言う)
- 一価の正のイオンとなっている原子、分子の電子親和力=中性の原子、分子のイオン化エネルギー
という関係が成り立つ。また
- 中性の原子、分子の電子親和力≠中性の原子、分子のイオン化エネルギー
である(この場合、通常イオン化エネルギーの方が値として大きい)。
金属では仕事関数と一致するが、半導体の場合は伝導帯の底から真空準位までのエネルギー差として定義されるため、フェルミ準位から真空準位までのエネルギー差として定義される仕事関数とは異なる値になる。
負の電子親和力(←表面系の場合)
- 表面系において、表面の電子状態が半導体的(バンドギャップが存在)である場合、真空準位が伝導帯の底より低い位置に存在する場合があり得る。この場合、価電子帯から伝導帯へ励起された電子は、そのまま何の障害もなく真空準位へ遷移することができる。つまり、室温或いはそれより低い温度(による励起)で、表面から(伝導帯に励起された)電子が真空中へ放出されていく。これを負の電子親和力(negative electron affinity、NEA、負の電子親和性)と言う。但し、これは仕事関数が負であることを意味しない。
NEAは、ダイヤモンドの表面系で観測の報告がある[1]。負の電子親和力が実現されると、低い温度で作動する冷陰極真空管などに応用できる可能性があり注目されている[2]。
一覧
電子親和力(kJ/mol) | 出典 | |
---|---|---|
水素 | 72.8 | [3] |
ヘリウム | -48 | [4] |
リチウム | 59.6326 | [5] |
ベリリウム | -50 | [4] |
ホウ素 | 26.989 | [6] |
炭素 | 121.78 | [7] |
窒素 | -0.07 | [4] |
酸素 | 141 | |
フッ素 | 328 | |
ネオン | -116 | |
ナトリウム | 53 | |
マグネシウム | <0 | |
アルミニウム | 43 | |
ケイ素 | 134 | |
リン | 72 | |
硫黄 | 200 | |
塩素 | 349 | |
アルゴン | -96 | |
カリウム | 48 | |
カルシウム | 2 | |
スカンジウム | 18 | |
チタン | 8 | |
バナジウム | 51 | |
クロム | 64 | |
マンガン | < 0 | |
鉄 | 15 | |
コバルト | 64 | |
ニッケル | 112 | |
銅 | 119 | |
亜鉛 | < 0 | |
ガリウム | 41 | |
ゲルマニウム | 119 | |
ヒ素 | 79 | |
セレン | 195 | |
臭素 | 324 | |
クリプトン | -96 | |
ルビジウム | 47 | |
ストロンチウム | 5 | |
イットリウム | 30 | |
ジルコニウム | 41 | |
ニオブ | 86 | |
モリブデン | 72 | |
テクネチウム | 53 | |
ルテニウム | 101 | |
ロジウム | 110 | |
パラジウム | 54 | |
銀 | 126 | |
カドミウム | < 0 | |
インジウム | 39 | |
スズ | 107 | |
アンチモン | 101 | |
テルル | 190 | |
ヨウ素 | 295 | |
キセノン | -77 | |
セシウム | 46 | |
バリウム | 14 | |
ランタン | 48 | |
セリウム | 92 | |
プラセオジムからエルビウムまで | ||
ツリウム | 99 | |
イッテルビウム | ||
ルテチウム | 33 | |
ハフニウム | 2 | |
タンタル | 31 | |
タングステン | 79 | |
レニウム | 14 | |
オスミウム | 104 | |
イリジウム | 150 | |
白金 | 205 | |
金 | 223 | |
水銀 | < 0 | |
タリウム | 36 | |
鉛 | 35 | |
ビスマス | 91 | |
ポロニウム | 183 | |
アスタチン | 270 | |
ラドン | < 0 | |
フランシウム | 47 | |
ラジウム | 10 | |
アクチニウム | 34 | |
トリウムからオガネソン |
脚注
- ^ 平木昭夫、伊藤利道、八田章光「負性電子親和力ダイヤモンド半導体」『応用物理』第66巻第3号、1997年3月10日、235–241頁、doi:10.11470/oubutsu1932.66.235、ISSN 0369-8009。
- ^ 『真空を利用したパワースイッチを開発 —ダイヤモンド半導体を使うことにより世界で初めて成功』(プレスリリース)科学技術振興機構、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、2012年12月9日 。2019年7月24日閲覧。
- ^ Lykke K.R., Murray K.K. and Lineberger W.C. (1991). Threshold Photodetachment of H−. Phys. Rev. A 43, 6104–7 doi:10.1103/PhysRevA.43.6104.
- ^ a b c Bratsch S.G. and Lagowski J.J. (1986). Predicted stabilities of monatomic anions in water and liquid ammonia at 298.15 K. Polyhedron 5:1763–1770 doi:10.1016/S0277-5387(00)84854-8.
- ^ Haeffler G., Hanstorp D., Kiyan I., Klinkmüller A.E., Ljungblad U. and Pegg D.J. (1996a). Electron affinity of Li: A state-selective measurement. Phys. Rev. A 53:4127–31 doi:10.1103/PhysRevA.53.4127.
- ^ Scheer M., Bilodeau R.C. and Haugen H.K. (1998). Negative ion of boron: An experimental study of the 3P ground state. Phys. Rev. Lett. 80:2562–65 doi:10.1103/PhysRevLett.80.2562.
- ^ Bresteau D., Drag C. and Blondel C. (2016). Isotope shift of the electron affinity of carbon measured by photodetachment microscopy. Phys. Rev. A 93 013414 doi:10.1103/PhysRevA.93.013414.