数学 の分野における、n 階の双曲型偏微分方程式 (そうきょくがたへんびぶんほうていしき、英 : hyperbolic partial differential equation )とは、大まかには、n −1 階微分まで良設定 な初期値問題 を含む偏微分方程式 のことを言う。より正確には、非特性的超曲面に沿った任意の初期データに対して局所的に解くことの出来るコーシー問題 のことを言う。力学 に現れる多くの方程式は双曲型であるため、その研究は本質的に重要かつ時代の要求に即したものとして、興味の注がれるものである。双曲型方程式の代表例として、波動方程式 が挙げられる。空間が一次元の場合では、その方程式は
u
t
t
−
u
x
x
=
0
{\displaystyle u_{tt}-u_{xx}=0\,}
として与えられる。この方程式には、もし u とその一階微分が(十分に滑らかな性質を備えた)初期直線 t = 0 上で任意に特徴付けられる初期データであるなら、すべての時間に対して方程式の解が存在する、という性質がある。
双曲型方程式の解は、「波状」(wave-like)である。双曲型微分方程式の初期データにある擾乱(disturbance)が加えられたとしても、空間のすべての点がその影響を同時に受けることはない。固定された時間座標について、そのような擾乱の伝播速度 は有限である。そのような擾乱は、方程式の特性曲線 に沿って移動する。この特徴は、双曲型方程式を楕円型方程式 や放物型方程式 と区別するものである。楕円型や放物型の方程式の初期(あるいは境界)データに対して与えられる摂動は、本質的に領域内のすべての点に同時に影響を与える。
双曲性の定義は、本質的には定性的(qualitative)なものであるが、考えている微分方程式の種類に依存して、それを判断するための正確な基準が存在する。線型微分作用素 に対して十分に開発された定理は、ラース・ガーディン (英語版 ) による超局所解析 の研究に見られる。非線型微分方程式は、その線型化がガーディンの意味で双曲型であるなら、双曲型である。保存則系 に現れる一階の方程式系に対しても、また幾分か異なる定理が存在する。
偏微分方程式がある点 P において双曲型であるとは、P を通る非特性的超曲面上の任意の初期データに対して、そのコーシー問題 が P のある近傍において一意に解くことが出来ることを言う[ 1] 。
A
u
x
x
+
B
u
x
y
+
C
u
y
y
+
(lower order terms)
=
0
{\displaystyle Au_{xx}+Bu_{xy}+Cu_{yy}+{\text{(lower order terms)}}=0\,}
の形で記述され、
B
2
−
4
A
C
>
0
{\displaystyle B^{2}-4AC>0\,}
を満たすような任意の方程式は、変数の線型変換によって、波動方程式へと変換することが出来る。ただし、低階の項(lower order terms)が残るが、それらは方程式の定性的な理解においては本質的ではない[ 2] 。この定義は、平面の双曲線 の定義と類似のものである。
一次元の波動方程式
∂
2
u
∂
t
2
−
c
2
∂
2
u
∂
x
2
=
0
{\displaystyle {\frac {\partial ^{2}u}{\partial t^{2}}}-c^{2}{\frac {\partial ^{2}u}{\partial x^{2}}}=0}
は、双曲型方程式の一例である。二次元および三次元の波動方程式も同様に、双曲型偏微分方程式の範疇に含まれる。
このタイプの二階の双曲型偏微分方程式は、一階の微分方程式からなる双曲系(hyperbolic system)へと変換出来る場合もある[ 3] 。
x
→
∈
R
d
{\displaystyle {\vec {x}}\in \mathbb {R} ^{d}}
とし、
s
{\displaystyle s}
個の未知関数
u
→
=
(
u
1
,
…
,
u
s
)
{\displaystyle {\vec {u}}=(u_{1},\ldots ,u_{s})}
,
u
→
=
u
→
(
x
→
,
t
)
{\displaystyle {\vec {u}}={\vec {u}}({\vec {x}},t)}
に対して、次の一階偏微分方程式系を考える:
(
∗
)
∂
u
→
∂
t
+
∑
j
=
1
d
∂
∂
x
j
f
j
→
(
u
→
)
=
0.
{\displaystyle (*)\quad {\frac {\partial {\vec {u}}}{\partial t}}+\sum _{j=1}^{d}{\frac {\partial }{\partial x_{j}}}{\vec {f^{j}}}({\vec {u}})=0.}
ここで
f
j
→
∈
C
1
(
R
s
,
R
s
)
,
j
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle {\vec {f^{j}}}\in C^{1}(\mathbb {R} ^{s},\mathbb {R} ^{s}),j=1,\ldots ,d}
は連続的 微分可能 な関数であり、一般的には非線型 である。
今、各
f
j
→
{\displaystyle {\vec {f^{j}}}}
に対して、
s
×
s
{\displaystyle s\times s}
行列
A
j
:=
(
∂
f
1
j
∂
u
1
⋯
∂
f
1
j
∂
u
s
⋮
⋱
⋮
∂
f
s
j
∂
u
1
⋯
∂
f
s
j
∂
u
s
)
,
for
j
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle A^{j}:={\begin{pmatrix}{\frac {\partial f_{1}^{j}}{\partial u_{1}}}&\cdots &{\frac {\partial f_{1}^{j}}{\partial u_{s}}}\\\vdots &\ddots &\vdots \\{\frac {\partial f_{s}^{j}}{\partial u_{1}}}&\cdots &{\frac {\partial f_{s}^{j}}{\partial u_{s}}}\end{pmatrix}},{\text{ for }}j=1,\ldots ,d}
を定義する。
この時、系
(
∗
)
{\displaystyle (*)}
が双曲的 であるとは、すべての
α
1
,
…
,
α
d
∈
R
{\displaystyle \alpha _{1},\ldots ,\alpha _{d}\in \mathbb {R} }
に対し、行列
A
:=
α
1
A
1
+
⋯
+
α
d
A
d
{\displaystyle A:=\alpha _{1}A^{1}+\cdots +\alpha _{d}A^{d}}
が対角化可能 であり、その固有値 が全て実数であることを言う。
行列
A
{\displaystyle A}
が「異なる」実固有値を持つ場合には、対角化可能である。この場合、系
(
∗
)
{\displaystyle (*)}
は厳密に双曲的 (strictly hyperbolic)であると言う。
双曲系と保存則 には関連がある。一つの未知関数
u
=
u
(
x
→
,
t
)
{\displaystyle u=u({\vec {x}},t)}
についての一つの微分方程式からなる双曲系を考える。この場合、系
(
∗
)
{\displaystyle (*)}
は次の形で記述される:
(
∗
∗
)
∂
u
∂
t
+
∑
j
=
1
d
∂
∂
x
j
f
j
(
u
)
=
0.
{\displaystyle (**)\quad {\frac {\partial u}{\partial t}}+\sum _{j=1}^{d}{\frac {\partial }{\partial x_{j}}}{f^{j}}(u)=0.}
今、
u
{\displaystyle u}
は流束
f
→
=
(
f
1
,
…
,
f
d
)
{\displaystyle {\vec {f}}=(f^{1},\ldots ,f^{d})}
を備えるある量であると考えられる。この量が保存されることを示すために、系
(
∗
∗
)
{\displaystyle (**)}
を領域
Ω
{\displaystyle \Omega }
について積分 する:
∫
Ω
∂
u
∂
t
d
Ω
+
∫
Ω
∇
⋅
f
→
(
u
)
d
Ω
=
0.
{\displaystyle \int _{\Omega }{\frac {\partial u}{\partial t}}d\Omega +\int _{\Omega }\nabla \cdot {\vec {f}}(u)d\Omega =0.}
u
{\displaystyle u}
と
f
→
{\displaystyle {\vec {f}}}
が十分に滑らかな関数 であるなら、発散定理 を使い、また積分と
∂
/
∂
t
{\displaystyle \partial /\partial t}
の順序の交換を行うことで、一般的な形での量
u
{\displaystyle u}
についての保存則
d
d
t
∫
Ω
u
d
Ω
+
∫
∂
Ω
f
→
(
u
)
⋅
n
→
d
Γ
=
0
{\displaystyle {\frac {d}{dt}}\int _{\Omega }ud\Omega +\int _{\partial \Omega }{\vec {f}}(u)\cdot {\vec {n}}d\Gamma =0}
を得ることが出来る。この式は、領域
Ω
{\displaystyle \Omega }
内の
u
{\displaystyle u}
の時間変化の割合が、境界
∂
Ω
{\displaystyle \partial \Omega }
に沿った正味の流束と等しいことを意味している。これは単一の等式であるため、
u
{\displaystyle u}
は
Ω
{\displaystyle \Omega }
内で保存されていると結論付けることが出来る。
^ Rozhdestvenskii
^ Evans 1998, p.400
^ Evans 1998, p.402
Evans, Lawrence C. (2010) [1998], Partial differential equations , Graduate Studies in Mathematics, 19 (2nd ed.), Providence, R.I.: American Mathematical Society , ISBN 978-0-8218-4974-3 , MR 2597943 , http://www.ams.org/journals/bull/2000-37-03/S0273-0979-00-00868-5/S0273-0979-00-00868-5.pdf
A. D. Polyanin, Handbook of Linear Partial Differential Equations for Engineers and Scientists , Chapman & Hall/CRC Press, Boca Raton, 2002. ISBN 1-58488-299-9
Rozhdestvenskii, B.L. (2001), “Hyperbolic partial differential equation” , in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics , Springer, ISBN 978-1-55608-010-4 , https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Hyperbolic_partial_differential_equation