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うしかい座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
うしかい座
Boötes
Boötes
属格 Boötis
略符 Boö
発音 [boʊˈoʊtiːz]、属格:/boʊˈoʊtɨs/[注 1]
象徴 the herdsman[1]
概略位置:赤経 15
概略位置:赤緯 +30
正中 6月15日21時
広さ 907平方度[2]13位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
59
3.0等より明るい恒星数 3
最輝星 アルクトゥールス(α Boö)(-0.05
メシエ天体 0
確定流星群 January Bootids
June Bootids
Quadrantids
隣接する星座 りょうけん座
かみのけ座
かんむり座
りゅう座
ヘルクレス座
へび座(頭部)
おとめ座
おおぐま座

他の名称: Arctophylax
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うしかい座[3](うしかいざ、牛飼い座、Boötes[1])は、トレミーの48星座の1つ。日本では春から初夏にかけて見ることができる。

α星は、全天21の1等星の1つであり、アルクトゥールス(アークトゥルス)と呼ばれる。アルクトゥールスと、おとめ座のα星スピカしし座のβ星デネボラ(またはしし座α星レグルス[4])で、春の大三角と呼ばれるアステリズムを形成する[5][6]

主な天体

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恒星

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1等星が1つ(α星)、2等星が1つ(ε星)ある。

以下の恒星には、国際天文学連合によって正式な固有名が定められている。

  • α星:うしかい座で最も明るい恒星で、全天21の1等星の1つ[7]見かけの等級-0.05等の橙色巨星[7]アルクトゥールス[8](Arcturus[9])という固有名を持つ。
  • β星:4等星[10]。「ネッカル[8](Nekkar[9])」という固有名を持つ。
  • γ星:3等星[11]。Aa星は「セギヌス[8](Seginus[9])」という固有名を持つ。
  • ε星:うしかい座で2番目に明るい恒星で、2等星[12]と5等星[13]との連星[14]。ε星Aには「イザール[8](Izar[9])」という固有名が正式に付けられている[9]。美しい二重星で、ラテン語で「最も美しいもの」を意味する「プルケリマ」という名前で呼ばれることもあった[15]
  • η星:3等星[16]。Aa星は「ムフリド[8](Muphrid[9])」という固有名を持つ。
  • λ星:4等星[17]。「シュエングァ[8](玄戈、Xuange[9])」という固有名を持つ。
  • μ星:4等星[18]と7等星の連星。μAa星は「アルカルロプス[8] (Alkalurops[9])」という固有名を持つ。
  • 38番星:6等星[19]。「メルガ[8](Merga[9])」という固有名を持つ。
  • HD 131496:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でアンドラに命名権が与えられ、主星はArcalís、太陽系外惑星はMadriuと命名された[20]
  • HD 136418:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でカナダに命名権が与えられ、主星はNikawiy、太陽系外惑星はAwasisと命名された[20]

その他、以下の恒星が知られている。

その他

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由来と歴史

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19世紀のイギリスで販売された星座カード『ウラニアの鏡』に描かれたうしかい座。横にはりょうけん座かみのけ座、頭上に壁面四分儀座、足元にマエナルス山座が描かれている。

星座名の Boötes は、ホメロスが『オデュッセイア』の中で航海の目印として Boötes の名を用いたのが初出である[1]。元は、ギリシア語Βοώτης を音訳したもので、動物を追いやる大きな声に関連して「騒がしい」を意味する言葉であったとされる[1]。また「Βους(牛)を ωθειν(動かす)」に由来する[3]ともされ、実際におおぐま座が牛に牽かれた車として描かれた図が残っている[1]。また、Ἀρκτοφύλαξ とも呼ばれており、これは「熊を監視する者」や「熊を守る者」などさまざまに訳され、現在は1等星のアークトゥルスにその名前を残している[1]アラートスはこの名前を用いて、熊を引き連れて天の北極の周りを巡る人物としている[1]

神話

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この星座に描かれた人物が誰かについては諸説ある。ヘレニズム期、紀元前3世紀のギリシャ人学者エラトステネースは著書『カタステリスモイ[注 2]』の中で、アルカディアの王リュカーオーンの娘カリストーゼウスの間に生まれたアルカスであるとした[1][21][22]。この物語を採る場合、すぐ隣のおおぐま座はアルカスの母で熊に変えられたカリストーとされる[21]

また紀元前1世紀の著述家ヒュギーヌスは、ディオニューソスからブドウブドウ酒の製法を教わったアッティカの王イーカリオスであるとしている[1]。ドイツの古典文献学者で古典ギリシャ語文献に詳しいヴォウルフガンク・シャーデヴァルトは、デーメーテールに見初められ、はじめて穀物の種まきをした人間イーアシオーンであるとしている[22]。この場合、牛に犂もしくは穀物車を牽かせており、おおぐま座は熊ではなく車と理解される[22]野尻抱影は、ギリシア神話で天を支える巨人とされるアトラースであるとする説を紹介している[23]が、これは19世紀末にリチャード・ヒンクリー・アレンが著書『Star Names: Their Lore and Meaning』で唱えた[24]ことに始まる説で、ギリシャ・ローマ時代の文献には登場しない。

後に天文学者たちはこの人物に2匹の犬(りょうけん座)を結び付けているが、ギリシア神話や古代ギリシアの星図とは全く関係がない。

呼称と方言

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英語では Boötes と綴られる。2番目の "o" の上に見られる "¨" はドイツ語に見られるウムラウト記号ではなく「トレマ (tréma)」や「ダイエリシス (diaeresis)」と呼ばれる分音記号である[3]。母音を表す文字が連続して表記された際にこの記号が付加されていると、それぞれの母音を単音として発音することを示す。もし分音符がない Bootes であれば [bú:ti:z](ブーティーズ)という発音になるが、うしかい座の場合はBoötes と綴るため oの単音を連続して発音する[bouóuti:z](ボウオウティーズ)と発音されることとなる[3]

日本では呼称が定まるまで時間を要した。1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳した『洛氏天文学』が刊行された際は、訳語が充てられず「ブーテス」という読みだけが示されていた[25]。その後は「牧夫」という訳語が充てられるようになり、1908年(明治41年)4月に刊行された日本天文学会の会誌『天文月報』の創刊号でも「牧夫[注 3]」とした星図が掲載されている[27]。その後、日本天文学会では『天文月報』1923年1月号から星座の日本語表記を一部改めた[26][28]。Boötes に対してはこれに先んじて1922年11月号から「牛飼」が使用されている[29]。1925年に初版が刊行された『理科年表』も日本天文学会の改訂に倣って「牛飼(うしかい)」の表記を継続して使用している[30]。これに対して山本一清ら関西の東亜天文学会系の研究者は反発して「牧夫」の名称を使い続けた[26][31]。このため、日本語での表記の統一は、1957年から1960年にかけて学術用語として「うしかい座」と正式に定められた昭和30年代まで遅れることとなった[26]

脚注

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注釈

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  1. ^ OED
  2. ^ 『カタステリスモイ』の作者はエラトステネースではない、とする説もある。
  3. ^ 「牧夫」の読みは、関西では「まきお」、関東では「ぼくふ」と呼ばれていた[26]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i Ridpath, Ian. “Star Tales - Boötes”. 2022年11月13日閲覧。
  2. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  3. ^ a b c d 原恵 2007, p. 122.
  4. ^ Spring Triangle – Constellation Guide”. Constellation Guide (2016年5月31日). 2022年11月13日閲覧。
  5. ^ 原恵 2007, p. 67.
  6. ^ 春の星空を楽しもう”. AstroArts. 2022年11月13日閲覧。
  7. ^ a b "alp Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  8. ^ a b c d e f g h 『ステラナビゲータ11』(11.0i)AstroArts。 
  9. ^ a b c d e f g h i IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合 (2022年4月4日). 2022年11月12日閲覧。
  10. ^ "bet Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  11. ^ "gam Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  12. ^ "HR 5506". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2013年1月27日閲覧
  13. ^ "HR 5505". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2013年1月27日閲覧
  14. ^ "CCDM J14449+2704AB". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2013年1月27日閲覧
  15. ^ 原恵 2007, pp. 123–124.
  16. ^ "eta Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  17. ^ "lambda Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  18. ^ "mu.01 Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  19. ^ "38 Boo". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧
  20. ^ a b Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2020年1月4日閲覧。
  21. ^ a b 伝エラトステネス『星座論』(3) へびつかい座・さそり座・うしかい座”. 2022年8月31日閲覧。
  22. ^ a b c Schadewaldt, Wolfgang 著、河原忠彦 訳『星のギリシア神話』白水社、1988年9月10日、28頁。ISBN 4-560-01877-4 
  23. ^ 野尻抱影『星座の話』(改)偕成社、1977年9月、83-85頁。ISBN 4037230100 
  24. ^ Allen, Richard H. (2013-2-28). Star Names: Their Lore and Meaning. Courier Corporation. p. 92-106. ISBN 978-0-486-13766-7. https://books.google.com/books?id=vWDsybJzz7IC 
  25. ^ ジェー、ノルマン、ロックヤー 著、木村一歩内田正雄 編『洛氏天文学 上冊文部省、1879年3月、57頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/831055 
  26. ^ a b c d 原恵 2007, pp. 43–44.
  27. ^ 天圖の説明」『天文月報』第1巻第1号、1908年4月、12頁、ISSN 0374-2466 
  28. ^ 雑報」『天文月報』第15巻第1号、1923年1月、15頁、ISSN 0374-2466 
  29. ^ 雑報」『天文月報』第14巻第11号、1922年11月、15頁、ISSN 0374-2466 
  30. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊丸善、1925年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/977669 
  31. ^ 山本一清「天文用語に關する私見と主張 (3)」『天界』第14巻第161号、東亜天文学会、1934年8月、406-411頁、doi:10.11501/3219882ISSN 0287-6906 

参考文献

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座標: 星図 15h 00m 00s, +30° 00′ 00″