コンテンツにスキップ

ブロンド・オン・ブロンド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『ブロンド・オン・ブロンド』
ボブ・ディランスタジオ・アルバム
リリース
録音 ニューヨーク市、コロムビア・レコーディング・スタジオ(1966年1月25日)[2]
ナッシュビル、コロムビア・ミュージック・ロウ・スタジオ(1966年2月14日-17日、3月7日-10日)[2]
ジャンル ロックフォーク・ロック
時間
レーベル コロムビア
プロデュース ボブ・ジョンストン
専門評論家によるレビュー
チャート最高順位
  • アメリカ合衆国の旗 9位(ビルボード・トップ LP's
  • イギリスの旗 3位(全英アルバム・チャート
  • ゴールドディスク
  • アメリカ合衆国の旗 2xプラチナ(RIAA
  • ボブ・ディラン アルバム 年表
    追憶のハイウェイ 61
    (1965年)
    ブロンド・オン・ブロンド
    (1966年)
    ボブ・ディランのグレーテスト・ヒット
    1967年
    『ブロンド・オン・ブロンド』収録のシングル
    テンプレートを表示

    ブロンド・オン・ブロンド』(: Blonde on Blonde)は、ボブ・ディラン1966年に発表した7作目のスタジオ・アルバム

    ローリング・ストーン』誌が選んだ「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」(2020年版)において38位にランクインした[3]

    概要

    [編集]

    レコーディング

    [編集]

    1966年1月6日、ボブ・ディランと妻のサラとのあいだに長男のジェシー・ディランが生まれた。家族と休暇をとったあと、ディランは1月21日にニューヨークのコロムビア・レコーディング・スタジオに入った。マイク・ブルームフィールドロビー・ロバートソンガース・ハドソンリック・ダンコリチャード・マニュエル、ドラムのサンディ・コニコフらとともに「She's Your Lover Now」を録音した[2]。1月25日、ロビー・ロバートソン(ギター)、ビル・リーアル・クーパー(オルガン)、ポール・グリフィン(ピアノ)、ボビー・グレッグ(ドラム)というメンバーで「ヒョウ皮のふちなし帽」を2テイク録音。ベースがビル・リーからリック・ダンコに変わり、次に「スーナー・オア・レイター」を録音した。1月27日、ロバートソン、クーパー、ダンコ、グレッグらと「ヒョウ皮のふちなし帽」と「アイル・キープ・イット・ウィズ・マイン」を録音した[2]

    同年2月14日、ディランは「スーナー・オア・レイター」をA面とするシングルを発表[4]。B面は『追憶のハイウェイ 61』に収録された「クイーン・ジェーン」だった。

    ディランがレコーディングの進捗に不満を抱いていることに気づいたプロデューサーのボブ・ジョンストンは、セッションをナッシュビルに移すことを提案した。マネージャーのアルバート・グロスマンの意に反して、ディランはその提案に同意した。2月14日、ナッシュビルのコロムビア・ミュージック・ロウ・スタジオでレコーディングは再開した。同月17日まで続けられたのち、ディランとホークスはアメリカとカナダでライブを行い、3月7日にディランはナッシュビルに戻り、同月10日にレコーディングを終わらせた[2]

    リリース

    [編集]

    1966年3月22日、ナッシュビル・セッションで録音された「雨の日の女」をA面、「プレッジング・マイ・タイム」をB面とするシングルが発売される[5]。「雨の日の女」は5月21日付のビルボード・Hot 100で2位を記録した[6]

    同年6月10日、ナッシュビル・セッションで録音された「アイ・ウォント・ユー」をA面とするシングルが発売される[7]。B面は同年5月14日にイギリスで録音された「親指トムのブルースのように」のライブ・バージョンだった。

    同年6月20日、2枚組のアルバム『ブロンド・オン・ブロンド』が発売された。かつてコロムビアはアルバム・リリースの日付を「5月16日」として公式に発表していたが、複数のディラン研究家による調査の結果[8][1][9]、近年、「6月20日」が正確な日付として定説となった[1]。6月25日付の「ビルボード」誌にアルバムの全面広告が掲載された[10]

    ニューヨーク・セッションからは「スーナー・オア・レイター」のみが収録された。Side 4の「ローランドの悲しい目の乙女」はLP一面にこの曲のみ収録しており、そのことはロック史上では初めてとされる。また、二枚組アルバムと言うのも当時、ロック・アルバムとしては珍しいものであった。『ブロンド・オン・ブロンド』はミックス違いや曲の長さなど少なくとも11種類の異なるヴァージョンがリリースされた。そのいずれもが標準的なヴァージョンとして確立されていない。ヨーロッパの一部では2枚のシングル・アルバムとしてリリースされた。

    タイトルとジャケット

    [編集]

    タイトルの由来については様々な説がなされている。2004年に発表された自伝の中で、ディランは、1963年にベルトルト・ブレヒトの楽曲を元にした音楽劇『Brecht on Brecht』を見たこと、同作品に大きな影響を受けたことを語った。以後、タイトルは『Brecht on Brecht』に由来するものではないかとの説が広まった。オリヴァー・トレイガーは同年に発表した著書でそのことに触れるとともに「タイトルの各単語の最初の文字がアナグラム頭字語)を形成し、単語「Bob」を綴っていることも忘れてはならない」と述べた[11]

    アルバムのジャケットおよび内側のモノクロの写真の大半はジェリー・シャッツバーグが撮影した。ジャケットの撮影場所は、ロック史家のボブ・イーガンの調査によれば、グリニッチ・ヴィレッジの西端、ウェスト・ストリート375番地とされている[12]1968年にコロンビアはジャケットを改訂している。内側に使用されたクラウディア・カルディナーレの写真が許可無しで使用されたためであった。

    収録曲

    [編集]

    全曲ボブ・ディラン作詞・作曲

    Side 1

    [編集]
    1. 雨の日の女 - Rainy Day Women #12 & 35 - 4:36
    2. プレッジング・マイ・タイム - Pledging My Time - 3:50
    3. ジョアンナのヴィジョン - Visions of Johanna - 7:33
    4. スーナー・オア・レイター - One of Us Must Know (Sooner or Later) - 4:54

    Side 2

    [編集]
    1. アイ・ウォント・ユー - I Want You - 3:07
    2. メンフィス・ブルース・アゲイン - Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again - 7:05
    3. ヒョウ皮のふちなし帽 - Leopard-Skin Pill-Box Hat - 3:58
    4. 女の如く - Just Like a Woman - 4:52

    Side 3

    [編集]
    1. 我が道を行く - Most Likely You Go Your Way and I'll Go Mine - 3:30
    2. 時にはアキレスのように - Temporary Like Achilles - 5:02
    3. アブソリュートリー・スイート・マリー - Absolutely Sweet Marie - 4:57
    4. フォース・タイム・アラウンド - 4th Time Around - 4:35
    5. 5人の信者達 - Obviously 5 Believers - 3:35

    Side 4

    [編集]
    1. ローランドの悲しい目の乙女 - Sad Eyed Lady of the Lowlands - 11:23

    アウトテイク

    [編集]

    ブートレッグ・シリーズ第1~3集』(1991年)に「アイル・キープ・イット・ウィズ・マイン(スタジオ・リハーサル中にディランが以前の持ち歌を口ずさみ始めると、プロデューサーから「そのまま続けて」と指示が出され録音テープに残されたもの)」、「シーズ・ユア・ラヴァー・ナウ(歌詞を間違え途中でストップが掛かったもの)」が収録されている。

    ノー・ディレクション・ホーム:ザ・サウンドトラック(ブートレッグ・シリーズ第7集)』(2005年)に「ヒョウ皮のふちなし帽(オルタネイト・テイク)」、「メンフィス・ブルース・アゲイン(オルタネイト・テイク)」が収録されている。

    反響・評価

    [編集]

    アルバムは10月1日付『ビルボード』誌「トップ LP's」チャートで最高9位を記録し、全英アルバム・チャートで3位を記録した[13][14]アメリカ・レコード協会 RIAA により、1967年8月25日にゴールド・ディスク、1999年5月5日プラチナ・ディスク2003年9月22日にダブル・プラチナ・ディスクに認定されている[15]1999年グラミーの殿堂入りを果たした。

    ディランは、発売から12年後の1978年に、次のように語っている。

    僕が心の中で聞いているサウンドに最も近づくことのできたのが『ブロンド・オン・ブロンド』に収録したそれぞれの歌だ。それは自由に動き回る水銀のようなサウンドだ。どんなふうに想像してもよいが、とにかく金属的で黄金に輝いている。これが僕の特別なサウンドだ。今まではこのサウンドをレコードで作り出すことができなかった。今までもずっとギター・ハーモニカ・オルガンを組み合わせてこのサウンドを作り出そうと努力してきた[16] — ボブ・ディラン

    この言葉が示すように、ディランのフォークとロックを融合させた音作りの試みがピークに達したものとして、60年代ロックの指標的作品の一つに数えられる。『これが最高!(Critic's Choice Top 200 Albums)』(1979年 クイックフォックス社)の英米編では2位、日本編では3位にランクされ、英国の音楽雑誌『MOJO』が1995年に選んだ「The 100 Greatest Albums Ever Made」では8位にランクされた。『ローリング・ストーン』誌が選んだ「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」(2012年版)において9位にランクされた[3]

    チャート

    [編集]
    アルバム
    チャート 最高順位
    1966年 ビルボード・トップ LP's 150 9
    1966年 全英アルバム・チャート Top 75 3

    リリース

    [編集]
    アメリカ
    日付 レーベル フォーマット カタログ番号 付記
    1966年5月16日[17] Columbia 2LP C2L 41 モノラル
    C2S 841 ステレオ
    Columbia CD CK
    日本

    日本ではCBS/日本コロムビアから『雨の日の女/ボブ・ディラン第5集』(1966年、YS-672-C)、1967年に『ブロンド・オン・ブロンド/ボブ・ディラン第6集』(1967年、YS-748-C)に分けられてリリースされた。1992年には、MD規格でリリースされた。2004年、再発CDがオリコン・チャートで最高136位を記録した[18]

    日付 レーベル フォーマット カタログ番号 付記
    1966年 CBS/日本コロムビア LP YS-672-C 『雨の日の女/ボブ・ディラン第5集』、1・2面
    1967年 CBS/日本コロムビア LP YS-748-C 『ブロンド・オン・ブロンド/ボブ・ディラン第6集』、3・4面
    1968年 CBSソニー 2LP SONP-50158・50159
    1973年12月 CBSソニー 2LP SOPI-3・4
    1974年 CBSソニー 2LP SOPJ-47・48
    1976年 CBSソニー 2LP 40AP 274・275
    1987年8月26日[19] CBSソニー CD 40DP 1029 CBS CD ROCK 100
    1991年12月1日[20] ソニー CD SRCS 6157 NICE PRICE LINE
    1992年12月12日 ソニー MD SRYS 1027
    1994年3月21日[21] ソニー CD SRCS 6682 SBM、THE COLLECTORS ITEM SERIES、完全限定盤、ゴールド
    1995年12月21日[22] ソニー CD SRCS 7905 SBM、紙ジャケ
    1997年1月22日[23] ソニー CD SRCS 9237 SUPER NICE PRICE 1600
    1997年10月22日 ソニー MD SRYS 1214 SUPER NICE PRICE
    2000年3月8日[24] ソニー SACD SRGS 4531 DSDマスタリング
    2003年10月22日[25] ソニー 2SACD HYBRID MHCP-10005・10006
    2004年8月18日[26] ソニー CD MHCP-373 紙ジャケ、完全生産限定盤
    2005年8月24日[27] ソニー CD MHCP-807 2003年デジタル・リマスター
    2009年3月25日[28] ソニー Blu-spec CD SICP-20091

    脚注

    [編集]
    1. ^ a b c Heylin 2017, p. 288.
    2. ^ a b c d e Olof Björner. “Still On The Road 1966 Blonde on Blonde Recording Sessions and World Tour”. Still On The Road. 2024年9月7日閲覧。
    3. ^ a b Bob Dylan, 'Blonde on Blonde' | 500 Greatest Albums of All Time | Rolling Stone
    4. ^ 45cat - Bob Dylan - One Of Us Must Know (Sooner Or Later) / Queen Jane Approximately - Columbia - USA - 4-43541
    5. ^ Sanders 2020, p. 251.
    6. ^ Music: Top 100 Songs | Billboard Hot 100 Chart | THE WEEK OF MAY 21, 1966
    7. ^ Heylin 2021, p. 455.
    8. ^ Gray 2006, p. 59.
    9. ^ Blonde On Blonde”. Searching For A Gem. 2024年9月11日閲覧。
    10. ^ “Bob Dylan's New Smash Single, "I Want You"”. Billboard. (June 25, 1966). https://books.google.com/books?id=MikEAAAAMBAJ&q=%22blonde+on+blonde%22+bob-dylan+billboard&pg=PA19 April 1, 2011閲覧。. 
    11. ^ Trager 2004, pp. 51–52.
    12. ^ Egan, Bob. “Bob Dylan's Blonde on Blonde (1966)”. popspots.com. May 15, 2016時点のオリジナルよりアーカイブMay 17, 2016閲覧。
    13. ^ “Top LP's”. Billboard (The Billboard Publishing Company) (October 1, 1966): p. 34. https://books.google.co.jp/books?id=UQ8EAAAAMBAJ&lpg=PA3&dq=billboard%20blonde%20on%20blonde&pg=PA34#v=onepage&q&f=false 2011年3月13日閲覧。. 
    14. ^ Bob Dylan - The Official Charts Company” (英語). theofficialcharts.com. 2011年11月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年3月13日閲覧。
    15. ^ RIAA Gold and Platinum Search for albums by Bob Dylan” (英語). RIAA. 2011年3月13日閲覧。
    16. ^ クリス・ウィリアムズ『ボブ・ディラン・ イン・ヒズ・オウン・ワーズ』1994年2月 キネマ旬報社
    17. ^ Blonde on Blonde” (英語). bobdylan.com. 2011年3月13日閲覧。 “05/16/1966”
    18. ^ ブロンド・オン・ブロンド(MHCP-373)”. オリコン. 2009年8月12日閲覧。
    19. ^ ブロンド・オン・ブロンド(40DP-1029)”. CDJounal.com. 2009年8月26日閲覧。
    20. ^ ブロンド・オン・ブロンド(SRCS-6157)”. オリコン. 2009年8月12日閲覧。
    21. ^ ブロンド・オン・ブロンド(SRCS-6682)”. オリコン. 2009年8月12日閲覧。
    22. ^ ブロンド・オン・ブロンド(SRCS-7905)”. オリコン. 2009年8月12日閲覧。
    23. ^ ブロンド・オン・ブロンド(SRCS-9237)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月12日閲覧。
    24. ^ ブロンド・オン・ブロンド(SRGS-4531)”. オリコン. 2009年8月12日閲覧。
    25. ^ ブロンド・オン・ブロンド(MHCP-10005・10006)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月12日閲覧。
    26. ^ ブロンド・オン・ブロンド(MHCP-373)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月12日閲覧。
    27. ^ ブロンド・オン・ブロンド(MHCP-807)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月12日閲覧。
    28. ^ ブロンド・オン・ブロンド(SICP-20091)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月12日閲覧。

    参考文献

    [編集]
    • Trager, Oliver (2004). Keys to the Rain. Billboard Books. ISBN 0-8230-7974-0 
    • Gray, Michael (2006). The Bob Dylan Encyclopedia. Continuum International. ISBN 0-8264-6933-7. https://archive.org/details/bobdylanencyclop00gray 
    • Wilentz, Sean (2009). Bob Dylan in America. The Bodley Head. ISBN 978-1-84792-150-5 
    • Heylin, Clinton (2017). Judas!. Lesser Gods. ISBN 978-1-944713-30-0 
    • Sanders, Daryl (2020). That Thin, Wild Mercury Sound: Dylan, Nashville, and the Making of Blonde on Blonde (epub ed.). Chicago: Chicago Review Press. ISBN 978-1-61373-550-3 
    • Heylin, Clinton (2021). The Double Life of Bob Dylan: A Restless, Hungry Feeling, 1941-1966. New York: Little, Brown and Company. ISBN 978-0-316-53523-6. https://books.google.com/books?id=_NwDEAAAQBAJ 

    外部リンク

    [編集]